菅田さん自身の“母親との思い出”とは

――母を演じた原田美枝子さんとの共演はいかがでしたか?

 おもしろかったです。同世代で会っていたら、きっとバチバチなことになるだろうなって思いました。それくらいエネルギッシュで、透明度の高い表現をされる方。もちろん大先輩なので刺激を受けて当たり前なんですけど、その刺激が大先輩だからという刺激ではないというか。きっと同世代で会っていたとしても、多分、食らっていただろうなって思います。

――“バチバチ”を噛み砕いていただくと?

 「この役、主役を食ってたよね」みたいなこと、よく言うじゃないですか。それくらい、食うか食われるかみたいな感覚。もちろん、共演者として一緒に作品を作り上げている仲間ではあるんですけど、ちょっと気を抜くと飲み込まれる気がしました。お芝居をしていると、ふと役じゃなくなるというか、魔法が解けて素に戻されちゃうというか……。コメディだとわかりやすいですよね。素に戻って笑っちゃったら負けみたいな。それくらい、原田さんは生半可な覚悟じゃなく、撮影に臨んでいることが一瞬で伝わってきました。

――泉のことを息子ではなくかつての恋人と勘違いした母親が、ふと女の顔を見せて甘える公園のシーンが印象的でした。この映画ほどでないにしろ、親を“親”という属性ではなく、不完全な1人の人間であることを認識する瞬間は、誰にでもあることだと思います。

 そうだと思いますね。親って絶対的な存在だし、子からすると、唯一の頼れる人であり、正解というイメージがある。きっと、子供が小さい頃は万能のように振る舞ってくれていたのか、見せないようにしてくれていたんでしょうね。親ってすごいなと思います。

――菅田さんご自身は、親の別の顔を見て驚いた瞬間は?

 うちは3兄弟なんですけど、数年前に一番下の弟が大学に入学した頃から、母は毎日ご飯を作ったり、お弁当を作ったりする必要がなくなったんです。そのタイミングで仕事をし始めたんですけど、日に日に若返っていくし、ピカピカ輝いていく。高級そうなスカーフとかも巻き始めていました(笑)。あれ?って思いましたね。もともとはバブルの時代にバリバリのキャリアウーマンとして働いていたみたいですけど、息子からすると、仕事をする姿を初めて見るわけで。僕らが生まれたことによって、“母親”になったんだなって思いました。それはもちろん、父もそうですけどね。

――子供の頃の、お母さまとの忘れられない思い出はありますか?

 中学生の時に携帯電話が普及しだしたくらいの世代なんですけど、“携帯買ってもらえない事件”っていうのがありまして。当時はサッカーをやっていて遠征とかもあったし、練習で帰りが遅くなることもあったので、それを言い訳に携帯買ってよと父にお願いしたら、「テストで○点取ったら買ってやる」と言われたんです。で、目標の点数をちゃんと取ったのに、やっぱりダメだと言われてしまって。

 それに対して僕は「そのためにがんばったのに! ルールが違う、わー!」みたいになって、部屋にこもってブチギレたんです。そしたら母が入ってきて、「人はなかなか変わらないから、あなたが変わりなさい」って。もうね、時が止まりました。そんな不条理ある? って。

 親父もさすがに悪いと思ったのか、次の日に3年くらい型落ちの携帯電話が机に置かれていました。「これじゃない!」みたいに、また怒ったんですけど(笑)。

――そのことは、今でも話題に上がったりしますか?

 たまにしますよ。でも覚えてないって言われます。もちろん、人を変えるよりも自分が変わるという教育は正しいと思うけど、あのシチュエーションでルールを曲げてまで言われなきゃいけないことだったのかなって。中1か中2の話ですけど、あの事件は、僕の人生に何らかの影響を与えていると思います。だって、あれ以上の不条理はないですもん(笑)。母なりに父を立てようとしたのかなと、今なら思いますけどね。

2022.09.16(金)
文=松山 梢
撮影=深野未季
ヘアメイク=Emiy
スタイリスト=伊藤省吾(sitor)