そんな山田奈緒子×上田次郎コンビのキャラクターを作り上げたのが、『トリック』の第1エピソード「おっかーさまぁ!」でおなじみの「母之泉」(第1シーズン1話~3話)を演出した堤幸彦である。

『トリック』以前に堤が演出した『金田一少年の事件簿』や『ケイゾク』は準備に準備を重ね、ドラマ設計を念入りにして撮影に挑んだものであったが、『トリック』の演出はほとんど準備をせずに撮影に挑み、現場でアドリブ的にセリフを追加していくものだった。

 

山田の「エヘヘヘ」、上田の無表情…次々と生まれるアドリブ

 山田奈緒子の「エヘヘヘ」という笑いや、上田次郎の無表情の困り顔などは撮影の現場で作ったものだ。

 阿部寛は、撮影が始まって間もない「母之泉」の回で、まだ上田次郎のキャラクターの振れ幅を探っているなか、教団施設で上田が机を飛び越えるシーンでふと「坂上二郎風で飛び越えよう」と思い立ったという。これが『トリック』での阿部寛曰く「挑戦だった」と言う初のアドリブであった。

当時の阿部寛(1999年撮影) ©時事通信社
当時の阿部寛(1999年撮影) ©時事通信社

 また、スピンオフ作品にまでなった人気キャラ、刑事矢部謙三を演じる生瀬勝久は、『トリック2』の第2エピソード「100%当たる占い師」(第2シーズン3話後半~5話)で、「会話シーンを横山やすしでやってください」と堤から言われたという。

 ちなみに矢部謙三がカツラなのは、『トリック』と並行して出演する舞台で坊主にしなければならなかったために、じゃあカツラにしましょうという苦肉(?)の策だった。結果としてあの伝説のキャラクターが生まれたのである。当時の生瀬はプライベートで街を歩いていても、まず頭から見られたという。

 そして、矢部刑事の初代部下である石原達也を演じた前原一輝は、撮影前には自身の演じる役がプロファイリングが専門の優秀な刑事で、上司の矢部とはドラマ『相棒』のようなシリアスな関係だと思っていたという。しかし、標準語で書かれたセリフをすべて覚えたあとの撮影3日前になって、堤から「怪文書」と書かれたメールで「広島弁で」と指示が。慌てた前原は『仁義なき戦い』をまとめて借りて、デタラメの広島弁を習得したという。

2022.05.12(木)
文=すずき たけし