安子が久々にるいを連れて『たちばな』に帰った場面(第17話)でも、るいを母の小しず(西田尚美)に一旦預けるも泣いてしまう。ところが、安子に返すとすぐに泣き止むというシーンがありました。あれも芝居ではありません。ああいう場合、本当のお母さんに託しても泣き止まないことがあるのですが、彼女が抱き上げたらスッと泣き止んだ。るいちゃんも、上白石さんとの関係性をリアルなものだと感じていたんでしょう」

 さらに、“10人の母”上白石にはこんな器用な一面も。和菓子指導の中西信治氏によれば、

「おはぎ作りの練習時間を2時間取っていたのですが、僅か30分足らずで習得されていました。包餡というあんこでもち米を包む作業が本当にお上手で。テンポがいい上、包み方も綺麗なんです。撮影後もさらに15個くらいサッと素早く作り、ご自身で作ったおはぎを食べていました(笑)」

 橘家の祖父・橘杵太郎役の大和田伸也(74)も、上白石にメロメロのようだ。

「杵太郎があんこを作る際、炊き上がった瞬間に『ほっ!』と拳に力を込めるアドリブを入れたのですが、安子もあんこを炊く時にそのアドリブを踏襲してくれているんです。それがおじいちゃんとしては嬉しくてね……。杵太郎が亡くなる時、安子に『幸せになれ』と告げるのですが、萌音ちゃんを思って演じました」

 

上白石が苦手なこと

 かねてから上白石と親交がある、喫茶店を営む柳沢定一の息子・健一役を演じた前野朋哉(35)は、彼女を「優しい方」と明かす。

「オンエアを見て安子が辛い場面が流れた時に『安子、可哀そうだね』と直接彼女に連絡したんです。勝手に送っているだけなので『返信はいいから』と伝えても、律儀に『そうですよね』と返してくれました(笑)」

 圧巻の演技を見せたのは、英語を話す場面。小学校3年から5年までメキシコで暮らした彼女は、大学でも英語とスペイン語を学べる学部を選んだ。

「進駐軍のロバートと英語で話す場面(第29話)は3分半にわたってほぼ一人語りでしたが、通しで一発OKでした。字幕も出ていますが、見ている人が英語の意味が分からなくても、感情が伝わってくるお芝居をされていた。どこまで引き出しや実力を秘めている方なんだろう、と驚きました」(前出・堀之内氏)

2022.04.09(土)
文=「週刊文春」編集部