「美しく、謙虚に」、「目立たぬように、堂々と」

――確かに、筋肉隆々なヨシオだと、全然違う印象になっていたと思います。

 違いますよね。ヨシオという人は会社員をやっていて寝たきりの母親とふたり暮らし。ジムなんか通わないし、家で筋トレなんかもしないだろうなって、台本を読んで察するわけですよ。だから「スクリーンに映るし、裸になるから頑張って筋トレをしよう!」なんて考えは、まったくなかったですね。現場に入るといつも食欲がなくなるけど、このときは無理してお弁当も食べていました、痩せないように。やっぱりヨシオはタプタプしてないといけないから。

 身体だけでなく、顔もノーメイクなんです。今日もヘアメイクをつけていませんし、この作品に限らず、この1~2年に撮った映画は、大体この髪型で「おはようございまーす」と入って、そのまま帰ります。「自分の顔を触らせない」というこだわりではなく、なるべく別に「まんま映ればいいじゃん」と思っているから。

――逆に言えば、作品によっては肉体改造をするなどのアプローチも取りますか?

 そうですね。42のときに『バウンサー』で社長みたいな役をやったんです。そのとき身体を大きくするためにトレーニングを行い、ゴツくしました。あくまで多少の、ですけど、フィジカルアプローチはしたほうが、脚本全体のイメージに近づくとは思います。自分のエゴを通すよりも、その役が求めている、その映画が求めているイメージのゾーンに入っていくと、やっぱり芝居がしやすくなってくるんです。

――俳優業において、そのほか指針にしているものもありますか?

 今48なんですけど、すごくまろやかに、おだやかに、ひっそりと俳優をやりたいんです。そもそもモットーが「美しく、謙虚に」というのと、その次にくるのが「目立たぬように、堂々と」なんですよ。その2本の矢は常に心に持っていて、手放さないようにしています。

――演じたヨシオのように、熱を持っていたものに身が入らなくなってしまう感覚は、年を重ねると、誰もが経験があることかもしれません。村上さんは、いかがですか?

 あります、あります。10代後半~20代の頃かな、当時トップのロックンロールバンドと一緒にツアーを回っている時期があったんですね。そのときは真冬の極寒でも、タンクトップに革パン、さらにライダースの前を開ける、みたいなファッションをしていましたから(笑)。「寒くないんですか?」と聞かれても「寒いわけないだろ! ロックンロールだから!」って。いやいや、寒いし、今なんてダウンにストレッチデニムですからね(笑)。

――ファッショナブルな“ムラジュン”の裏に、そんなエピソードがあったとは、ですね(笑)。

 当時はパッツンパッツンの革パンを履いていて、膝なんて1センチくらいしか曲がらないんですよ。打ち上げに行って「やべぇ、座敷かよ」となると、みんなでこうやって(長座で)座ってたりして(笑)。それがロックンロールの正体です。

――今は、そうしたこだわりは全然なくなったんですか?

 ファッションとか着るものに関しては、ストレスがなるべくないもの、丈夫であるもの、ぐらいですかね。僕スタイリストをあまりつけたことがなくて、今日も海外から取り寄せた(私物の)靴を履いているんです。朝、試しに履いてみたら、写真映えはめちゃめちゃいいんですけど、「……履きにくっ!」と思ったり……そんなことはありますよ(笑)。

2022.02.04(金)
文=赤山恭子
撮影=山元茂樹