数年おきに80日間で記録する肉体の変化

――反対にずっと続けていることなども、ありますか?

 数年おきに、自分の身体を徹底的にいじめ抜いています。「鍛えて食事制限したらどうなるか」というデータは80日で取っています。35歳、42歳、45歳とやりましたね。35のときは、『ヘヴンズ ストーリー』の撮影に入っていたんですけど、2週間ずつ、1年半撮っていたんですね。だから途中でパツパツになったり、ガリガリになったりしていました(笑)。

――以前、ほかのインタビューにて「自分の40代を支える映画に出会えたら」とお話されていました。『夕方のおともだち』は、まさにそうした1作でしょうか?

 間違いなくそうですね、はい。

――廣木監督とは何作品もご一緒されていますが、村上さんにとって、改めてどういう存在ですか?

 廣木組と言われる光栄なポジションにいますけど、廣木さんとプライベートでの交流や飲みとかは、ほぼないんですよ。僕がお酒を飲まないというのはあるんでしょうけど、誘われないんです。廣木さんは、演出もそんなに言うタイプではありません。余計な言葉をかけるんだったら、何も言わずに「もう1回」という手法を取る方なので、テイクがいくときは徹底していきます。

 以前『L'amant ラマン』でBという人物を演じたとき、花火を見ながら3人の男が並んで涙ぐむシーンがあったんです。ひとりずつ表情を捉えるんですけど、「まず淳からいこうか」と言われて、僕から撮影が始まった。廣木さんは、何も言わずにずっと「もう1回」、「はい、もう1回」が続いて、結局そのまま3時間……。

――3時間、その表情を抑えるために撮り続けたということですよね!?

 そうですよ。大杉(蓮)さんと(田口)トモロヲさんという大先輩をお待たせしている中(苦笑)。3時間でテイク60ぐらい、いったのかな? もうどれを使われたか、わかんないですけど。寒い中待たせてしまっているのに、大杉さんたちは「淳くん、いいよー!」とか、みんな優しい言葉をかけてくれて…覚えていますね。

――ある意味追い込まれるわけですが、そこも廣木監督に信頼の置ける理由のひとつでもありますか?

 思うんですけど、例えばね……「ああ、今の感じで! もうちょい行けますか?」とか、「今の最高でしたね、もう1回行きましょう!」みたいなタイプの監督もいらっしゃるんですけど、そうするとね、惑わすんですよ。「だったら今のでいいじゃん!!」みたいな(笑)。

 結局、いくらカメレオン俳優と言われるような人も、メソッドを習っている人も、芝居にプランA~Dぐらいまで持っていたとしても、現場に入って「ちょっと違うことやってもらえますか?」と言われた場合、変わるのは2割ぐらいなんです。ニュアンスを変えるマックス2割の行き来を、我々はいつもしているんです。

 その中で、廣木さんのOKゾーンが狭いので、毎回呼ばれるのは、なかなか怖いものですよ。安定や安心を覚えて、前の日ぐっすり眠れたことなんてないですから。……いや、ごめん。この作品で1日中走ったシーンがあったんですけど、その日だけは疲れのあまり、ぐっすり深く寝られました(笑)。

2022.02.04(金)
文=赤山恭子
撮影=山元茂樹