週末に、心が洗われる別世界へ出かけてみるのはいかが。少し車を走らせれば、そこにはおもてなしの心に満ちた極上の宿が待っている。

 旅行作家の野添ちかこさんが、1泊2日の週末ラグジュアリー旅を体験。今回訪れたのは、静岡県・吉奈温泉に広大な敷地をもつ「東府やResort & Spa-Izu」だ。

 大正ロマンの趣あるラウンジでウェルカムドリンクを楽しんだり、木漏れ日が差し込む露天風呂で湯浴みをしたり……。晴れていれば散歩道から富士山を眺めることができるかも!? 敷地面積はなんと3.6万坪、海外のラグジュアリーリゾートを彷彿とさせる規格外の温泉リゾートが中伊豆にある。


感動は大正ロマンのカフェから始まる

 東名高速道路の東京IC(東京都世田谷区)から新東名高速道路を経て長泉沼津ICで降り、伊豆縦貫自動車道を通って約2時間。

 窓の外の田園風景を眺めながら緩やかな丘陵地を進んでいくと、のどかな温泉場へとたどり着く。

 2,244もの源泉が湧き、本州ナンバーワンの源泉数を誇る静岡県。なかでも9割以上が伊豆半島に集中しており、伊豆最古の湯といわれるのが、天城温泉郷の温泉の一つ、吉奈(よしな)温泉だ。

 ここは奈良時代の高僧・行基が発見したという開湯伝説が残る名湯で、徳川家康の側室であった「お万の方」がこの温泉に浸かって、頼宣と頼房、2人の子どもを授かったことから、“子宝の湯”として知られている。

 とにかくよく温まるのがこの温泉の特徴だが、吉奈温泉の「温め力」は妊活だけに効くのではない。冷え性や婦人病など女性特有の症状に効果的で、美肌づくりの湯でもある。

 吉奈温泉を堪能できる宿は、現在「東府や」と「さか屋」の2軒。「東府や」は志賀直哉や室生犀星など文人墨客が訪れた歴史のある湯宿で、敷地内を流れる吉奈川の上流は、今でも初夏に蛍が飛び交うほど水がきれいで、まさに究極のリゾートと呼ぶにふさわしい立地だ。

 宿泊棟は、本館、西館、離れ(ヴィラ)の3棟。全30室のうち23室に半露天風呂がついた和のリゾートだ。

 玄関棟から宿泊するヴィラまでは、早足で歩いても5分くらいかかるのだが、東府やの魅力はこの広大な敷地。裏山まであわせると3.6万坪もある。

 「何もしない贅沢」を決め込んで客室でまったりと過ごすのもいいけど、むしろ散策に出かけるのがおすすめ。

 吉奈川に架かる芳泉橋は、大正14年(1925年)にできた石造りの橋。敷地内には全部で3本の橋が架かっていて、玄関からヴィラに移動するまでに2つの橋を渡らなくては到着できない。敷地の奥に分け入るほどに、緑も濃くなっていく。

大正時代の趣あふれる宿泊者専用ラウンジ「大正館芳泉」

 敷地内でひときわ目立つ木造の建物が「大正館芳泉」。電子機器メーカーの明電舎の会長が大正時代に建てた別荘を譲り受け、リニューアルしたカフェである。

 宿泊客はチェックイン後に、ここでウェルカムドリンクとしてビールやコーヒー、ハーブティーなどの飲み物を自由に楽しめる。

 中に入ってみると、右手に「ミルクホール」、左手に「café Art Deco」と書かれたレトロポップな看板が見え、その先にカフェスペースが広がっている。大正浪漫を感じさせる赤いじゅうたんとアールデコ調の照明器具、奥にはきらびやかなシャンデリアと大理石の階段も。

 ここでは自家製サングリアや静岡の和紅茶など、ご当地ドリンクにトライしてみよう。飲み物サービスは夕方まで。チェックイン後、客室に荷物を置いたらすぐに出かけたい。

文・撮影=野添ちかこ