扇情的な雰囲気が濃厚な「あぶない」絵

《かんぬき》 不倫なのかパワハラなのか妄想の尽きない名作

フラゴナールはロココの最後を飾った画家で、軽やかな雅宴画を得意とし、また肖像画家としても優れていた。フランス革命下の晩年に失墜、忘却の画家となるが、後世、ルノワールが再評価したのは周知。かんぬきは、男性性を示すものだというが……寝室に鍵をかけることは、情熱の鍵を開けること、だそう

Le Verrou ジャン=オノレ・フラゴナール 1777年頃制作 H74㎝×W94㎝ シュリー翼2階 展示室48
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 最後は、フラゴナールの問題作《かんぬき》。これは相当「あぶない」絵だと思う。情熱的、いや扇情的な雰囲気が濃厚だ。室内で男女が争い、女性が男性に抱きすくめられ、腕ずくであわやという状況に陥っている。かんぬきを掛けられたら逃げられないし……おおよそこのような内容であろうか。しかし、絵には曖昧さがあり、どうも簡単には結着がつかない。そもそもこの2人はどういう関係なのか、今ひとつはっきりしない。普通の恋人同士なのか、あるいは、女主人が下僕のたくましい若者に無理やり迫られたところか。それとも、逃げようとしているのは女性ではなく青年の方で、それを阻止しようと彼女が抱きついていると想像できないだろうか。ベッドはすでに乱れているのだから……まあ、名作ほど多義的な解釈を許すものではある。ただ、左のテーブルに原罪を象徴するりんごが置かれているのは気になる。はたして罪深い男女に救いはあるのか。よくできたもので、この絵は同じ画家の《羊飼いの礼拝》の対作品として注文を受け、制作されている。2作で聖愛と俗愛の対比を表した可能性もあるが、情熱の罪は贖罪のキリストの生誕で浄められると考えれば、辻褄は合う。それでも謎は残るけれど。

 さて、以上挙げた例はほんの一部に過ぎない。ルーヴルの絵のミステリーに終わりはないのである。

supervision:Atsushi Miura
plan / realization / text:Satsuki Ohsawa
photographs:Yuji Ono
coordination:Yûki Takahata