この世界に入ったか理由を毎回思い出すようにしている

――お2人を見ていていつも思うのは、弟である亜生さんが“お兄ちゃん”と呼ぶ関係が大人になっても続いていること。妹がお兄ちゃんと呼ぶのはわかるんですけど、30歳すぎても兄貴ではなくお兄ちゃんって呼んでるところがいいですよね。

昴生 朝早かったり眠かったりとどれだけ不機嫌でも、ちゃんと「おい、お兄」って呼ぶんですよ。“お兄ちゃん”じゃなく、“お兄”なんですけどね。それを聞くたびに、“こいつ、かわいっ! 機嫌悪いのに、お兄って呼んでる!”って思ってます。

亜生 どんだけ楽しいときでも、お前って呼んだ瞬間にキレるやん! やから、お兄ちゃんって呼ぶしかないっていうか。

――けど、近くにいるわけですから、“おい”とか“なぁ”っていう呼びかけだけでも通じるじゃないですか。

昴生 そうそう。“なぁなぁ”とかでもいいのに。

亜生 “なぁ”って呼ぶより、“お兄!”のほうが早いやん。

昴生 “なぁ”のほうが早いに決まってるやろ。古典的なボケすな!

「元々見ていた景色を大事にしたい」

――本の中にあるインタビューで、2019年のもので昴生さんは自分は欲深くないという話をしながらが、2021年には「この世界にいると欲はたくさん出てくる」と話していたのが印象的でした。

昴生 この世界は欲まみれですからね。けど、初心忘るべからず、というか。何をしたいがためにこの世界へ入ってきたのか、ゴールを何と捉えていたのかということを自問自答じゃないですけど、毎回思い出すようにしてるんです。単独ライブも最初に来てくれたのは80人くらいでしたけど、あのときの感動を忘れたらあかんなって。お客さんがまみちゃん(昴生の妻)しかいなかったときのことを思えば、僕ら目当てにチケットを買ってきてくれるお客さんがたくさんいる……こんな幸せ、なかなかないじゃないですか。

亜生 実際、僕は何年か忘れかけてました。お客さんが来てくれるのは当たり前やと思ってたところがあったんですけど、昨年、緊急事態宣言で無観客を経験してありがたいことやったんやなって思ったというか。

昴生 ……いや、そういうことじゃないねんなぁ。俺が伝えたかったのは、初心忘るべからずのほうやねん。

亜生 え、それって同じことじゃないの?

昴生 いろんな仕事をして、違う風景をいっぱい見られるようになった。昔とは違う景色を見ると、次はこの景色が見たい、こっちに行ったらあの景色が見られるやんとか思うことがどんどん増えていくけど、元々、地元の大文字山から見る景色がいちばんきれいやと思ってたやん、俺って。ほかの景色を羨ましがるんじゃなく、地に足つけるじゃないけど、元々見ていた景色を大事にしたいっていうことが言いたかったんや。

亜生 大文字山っていうところが、ちょっとこそばゆいなぁ。

昴生 将軍塚と大文字山で迷った(笑)。それしか思いつかんかったから。

亜生 僕は初心がないまま、芸人を始めたから。最初はテレビに出たいと思っていたんですけど、途中から漫才がただただ楽しくなってきて、今もそうです。ただただ漫才が楽しい。

「僕らは捨てるものが、な〜んにもない」

――そういう意味で、『~ソウドリ~』への出演、そして優勝は漫才師としての存在を改めて感じてもらういい機会となったんじゃないですか。

昴生 総合演出の藪木(健太郎)さんが声をかけてくださって。藪木さんからの仕事はよほどのことがない限り断らないと決めていて、今回もご本人からお話をいただいたので引き受けたんです。MCとかやってるほかの人なら、今まで築き上げてきたものがなくなるから出ないっていう選択肢にもなるんでしょうけど、僕らは捨てるものがないですしね。

亜生 な~んにもない。

昴生 負けても何も変わらんということで出たんですけど、久しぶりにめっちゃ緊張しました。

亜生 お兄ちゃん、めっちゃ顔が引きつってた(笑)。目がバキバキの顔を観て、もっと緊張しそうになりました。優勝できてよかったです。

――個人的には、そういうバトルにもどんどん出ていただきたいですけどね。

昴生 今までネタで戦う必要はないと思ってたんです。でも、今回やってみて、出るのもいいなと思いました。(漫才師として)現役バリバリ感はまだまだ欲しいですからね。2年前に『M-1』決勝に行けたらやろうと思っていた2本の漫才ができたのもよかったです。

亜生 2人で、2本できてよかったなって言い合いました。

――過去の『M-1』決勝でやりたかったネタを出したということは、今年は今年でまた新しいネタを作って挑戦されるんですね。

昴生 もちろん! 全国ツアーも始まりましたし、今、絶賛制作中です。

亜生 昨年はツアーを開催できなかったですからね。特に、地方は(観客のいる客席を目にしたら)感動するかもしれない。なので、今から楽しみですね。

ミキ

兄の昴生(1986年4月13日生まれ)と弟の亜生(1988年7月22日生まれ)が、2012年に結成。2016年、「第46回NHK上方漫才コンテスト」優勝。2017年、2018年と「M-1グランプリ」のファイナリストに。現在は「霜降りミキXIT」「よるのブランチ」「王様のブランチ」(TBS)「おはスタ」(テレビ東京)「知りたガールと学ボーイ」(NHK)「ミキの兄弟でんぱ!」(KBS京都ラジオ)などレギュラー多数。現在、「ミキ漫 全国ツアー2021」開催中。詳細は公式サイト(https://mikiman.yoshimoto.co.jp/)にて確認を。

『MIKI OFFICIAL BOOK ミキ、兄弟、東京』

ミキ著
ヨシモトブックス 2420円

2021.07.24(土)
文=高本亜紀
撮影=榎本麻美(文藝春秋)