豊穣の地ナイアガラで 美味しいワイン三昧
せっかくナイアガラまで来たなら、極上のワインも忘れずに堪能したい。
滝から北へ車で約30分、滝が流れ込む河口にナイアガラ・オン・ザ・レイクというワインの銘醸地がある。フランスのボルドーとほぼ同緯度で、冬は気温マイナス20度、夏は30度に達しても流れの絶えない湖水により寒暖が和らげられ、葡萄の苗木を優しく保護してくれる。また、この一帯は氷河が溶けてできた舌状台地で上質なミネラルが含まれ、苗木が深くしっかりと根付く。ワイン造りの好条件が揃っているのだ。
オンタリオでは1860年代頃からワイン造りが始められ、この地区だけで現在100カ所ものワイナリーが点在。ワインの品質も生産量も誇る、カナダ随一の産地だ。
また、この地が世界的に脚光を浴びた理由のひとつに、デザートワインの一種であるアイスワインが挙げられる。あるドイツ人醸造家が「冬に凍った葡萄を捨てるにはもったいない」とプレスにかけて仕上げたところ、果汁が凝縮され、後味が爽やかな甘い美酒に。これが瞬く間に広がり、1980年代初頭から製造され始めた。
凍った葡萄の果汁はごく少量なので、アイスワインの生産本数は通常のワインの半分ほど。この地を訪れてこそ手に入る希少な逸品だ。ぜひ訪れたいワイナリー3軒へとご案内しよう。
#01 Château des Charmes(シャトー・デ・シャーム)
瀟洒な邸宅を思わせるワイナリーは1978年に創業され、ボスク家の5代目が営む。4つの畑から造られるスパークリングや白ワイン、赤ワイン、そして3種のアイスワインは厳しい品質管理のもと、数々の賞を受賞。特にアイスワインは生産からボトリングに至るまで、厳格な基準が定められ、現地のVQA(Vintners Quality Alliance)検定員により監視され、高品質に保たれている。
アイスワインの材料となる凍った葡萄は大量に必要であるうえ、葡萄が潰れないように夜、手摘みで収穫される。ワイナリースタッフは「とても根気のいる大変な作業なんです。毎日の天気と夜の気温を注視しながら摘む頃合いを見定めるのも難しい」と語る。
苦労の甲斐あって完成された味は、葡萄の甘みが凝縮され、コニャックのようにとろりとした極上のテイストだ。「この味は罪深き喜びね(笑)。だからアイスワインは止められない」「記念日など特別な時に飲むとさらに味わい深いわ」と、スタッフはみんな饒舌に。アイスワインはひと口で幸せをもたらしてくれる特別なもの。世界のワインラバーたちから愛されるのも納得だ。
Château des Charmes
#02 Inniskillin(イニスキリン)
こちらの創業は1975年。’91年にヴィネクスポ・ボルドーで輝かしいグランプリ・ドヌールを受賞し、アイスワインを世に広めた立役者だ。1920年代、生食用の葡萄を作っていたこの地で大反対されるなか、イタリア人とオーストリア人のふたりがワイナリーを立ち上げ、当時この一帯がアイランドの軍隊名「イニスキリン」ファームと呼ばれた。その果敢な精神を尊重し、名付けられた。
名前の由来通り、ワイナリーでは’83年にアイスワイン造りに挑戦した。しかし、鳥たちが凍った甘い葡萄をついばんでしまい、あえなく断念。翌年に再挑戦し、カナダ固有の品種ヴィダルによる念願のアイスワインが完成した。
以後、品質改良を繰り返し、現在はスパークリングといった新しいタイプも提供している。泡を含んだアイスワインは、口に広がる芳醇なテイストで、細かな泡で優しく喉を潤してくれる。デザートワインとしてでなく、食中酒としてもいける味わいだ。
Inniskillin
#03 Southbrook Vineyards(サウスブルック・ヴィンヤーズ)
サウスブルック・ヴィンヤーズは化学肥料や農薬を一切使わない、オーガニックワイナリーだ。ハチや虫が飛んでくるような周囲の自然環境を保護しながら、生態系に従うバイオダイナミック栽培も用いてワイン造りに励む。葡萄の苗木の肥料も飼っている羊のフンという、ナチュラル志向だ。
オーナーは「大量生産を目指していないのです。ただ、ワインで自然を表現したいだ」と語る。自然と共存する姿勢は大きな窓ガラスをふんだんに使ったワイナリーの建物にも見受けられ、「室内にいるのに、まるで外にいるみたいだろう? 風の音もダイレクトに聞こえるんだよ」と顔をほころばせた。
そのオーナーの優しさが詰まったようなアイスワインは、上品であっさりとした味わい。すっと体に溶け込んでいく。
Southbrook Vineyards
テイスティング後は 優雅なティータイム
ワイナリー巡り終えたところで、最後はおいしいアフタヌーンティーをいただこう。
ナイアガラ・オン・ザ・レイクは、かつてイギリスが植民地としていた場所。ヴィクトリア時代の雰囲気が残る街で、築150年以上を誇るレンガ造りの歴史的建造物「プリンス・オブ・ウェールズ」という最高級ホテルが出迎えてくれる。
1901年、ヨーク侯爵夫妻が訪れたことにより、この名がつけられた。当時の栄華を感じられる空間は地元に愛され、1階の「ザ・ドローイング・ルーム」ではマダムたちが歓談しながらアフタヌーンティーを愉しむ。紅茶も迷うほどの種類が多数、用意され、ゆっくりとした時間を過ごせる。
Prince of Wales
ナイアガラの滝とワインと、美しいお茶ーー。ナイアガラへすぐにでも旅したくもなるが、今はカナダへの想いを馳せつつ、現地へ旅する日が早くやって戻ってくることを祈るばかりだ。
※記事の内容は2020年3月取材時のもの
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文・撮影=CREA編集部
コーディネーター=ミッキー中村