牧野と家族の暮らしが垣間見える「牧野記念庭園」

 大学の出入りを許され、思う存分研究に没頭する牧野青年の熱意と知識に勝る者なく、日本で初めて新種ヤマトグサに学名をつけて発表し、研究成果の発表の場を求めて雑誌や図鑑の編纂など、植物分類学者としての躍進は続く。

 が、何の肩書きもないうえに、大学との軋轢も絶えず、結婚するも生活費さえままならない。

 幼少時に両親を亡くし番頭に任せきりの実家の造り酒屋も破綻。大学助手として、後に50歳を超えて講師として勤めたが借金は絶えない。

 大勢の子どもを抱え苦労ばかりかけた妻寿衛に感謝を捧げ、新種のササに「スエコザサ」と名付けている。

 暮らしは困窮していても、全国を回り、延べ40万に及ぶ標本を集め、「植物に親しむことは、生命を愛する心を養う」と、プロ・アマを問わず植物採集会を催した。

 それを支えた家族との暮らしが垣間見えるのが、牧野記念庭園だ。

 雑木林が広がる東大泉に移り住み、1957年に博士が94歳で没するまでの30余年を過ごした旧牧野邸の庭が今に残る。

 常設展では博士愛用の品々、植物画ほか、65歳で学位を得たら「平凡になってしまった」と講師の職を辞したエピソードも交えて興味は尽きない。

 他にも、旧牧野邸の書斎と書庫を保存する書屋展示室、博士ゆかりの展覧会を開催する企画展示室も園内に。

 “我が植物園”と博士が慈しんだ庭には、名札を添えた雑木林の名残の木々と博士が集めた草木に植物学の志が受け継がれる。「私は草木の精である」。

 自然界に棲んだ草木の妖精、牧野富太郎は、この庭で繰り返される生命の循環に溶け込んでいるのかも知れない。

練馬区立牧野記念庭園

所在地 東京都練馬区東大泉6-34-4
電話番号 03-6904-6403(記念館)
開園時間 9:00~17:00 
入園料 無料
休園日 火曜(祝日の場合は翌平日)
http://www.makinoteien.jp/

Text=Chiyo Sagae
Photographs=Asami Enomoto