開拓の時代より大いなる自然に立ち向かってきた北海道の人々が人の手による「庭」を創る時、それは伸び伸びとおおらかで、土地の歴史やそれ以前からその地に息づく生命の連続を今に紡いでいるかのようだ。
北の大地に抱かれる北海道の庭は、みなぎる生命の歓びに溢れている。おすすめの庭園や美術館などの施設を8つご紹介。
町と繋がる緑の空間に彫刻家が描き出す大地の記憶
◆安田 侃(やすだ かん)彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄(びばい)
柵もなく入場料もないその庭は、かつて炭鉱の町として栄え、閉山と共に多くの人が去った美唄の町で、あらゆる人に開かれている。
それは、この町で生まれ育ち、イタリアを拠点に制作を続ける彫刻家、安田侃氏の彫刻約40点が起伏のある緑の空間と呼応する安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄。
敷地全体のランドスケープも含め彫刻家自身が設計を施し、今も進化を続ける野外美術館だ。
美術館誕生のきっかけは、敷地内の閉校になった小学校の木造校舎の一画を使用する幼稚園に通う子どもたちだった。
美唄市の依頼を受けた作品を安田氏が1980年に市に納めた数年後、校舎脇の古い体育館をアトリエとして借用していた氏は、雨の日も雪の日も元気に通ってくる子どもたちの姿を目にしたという。
炭鉱町の最盛期に自身の子ども時代を過ごした安田氏が、長い年月を経て会った故郷の子どもたちと彼らの未来に残そうと決意したのが、町の記憶や人々の思い出を宿す芸術広場=アルテピアッツァだった。
床の軋む音に年月を感じる木造2階建ての校舎は、今はギャラリーや展示室として開放され、トラス組みの丸い天井が郷愁を誘う旧体育館はアートスペースとして機能する。
屋外に出て、白い大理石やブロンズの作品に触れてその感触を楽しむも良し、ただ心地よい芝に寝そべって日向ぼっこや読書するも良し。自分の体より大きな作品によじ登って遊ぶ子どもたちもいる。
皆が思い思いに自由に過ごす、北の空に向けて大きく開かれた大地。
そんな風景を眺めていると、今を生きる人たちが自由にここで過ごすことが、彫刻家の意図である気がしてくる。
だからきっと、何人も拒むことなくこの庭は開かれている。
安田 侃(やすだ かん)彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄(びばい)
所在地 北海道美唄市落合町栄町
電話番号 0126-63-3137
開館時間 9:00~17:00
入館料 無料(任意による寄付)
休館日 火曜、祝日の翌日(日曜は除く)
https://www.artepiazza.jp/
Caffé Arté
電話番号 0126-63-1010
営業時間 10:00~17:00(11月中旬~3月中旬 10:00~16:00)
定休日 火曜、祝日の翌日(日曜は除く)
Feature
大地の鼓動に抱かれる
北海道ガーデン紀行へ
Text=Chiyo Sagae
Photographs=Asami Enomoto