開拓の時代より大いなる自然に立ち向かってきた北海道の人々が人の手による「庭」を創る時、それは伸び伸びとおおらかで、土地の歴史やそれ以前からその地に息づく生命の連続を今に紡いでいるかのようだ。

 北の大地に抱かれる北海道の庭は、みなぎる生命の歓びに溢れている。おすすめの庭園や美術館などの施設を8つ紹介する。


それぞれの生き物が自活するようその最初を作り込んであげるだけ

◆陽殖園(ようしょくえん)

遠方の山を借景し、山脈のように連なる緑の景色を創生している。

 北海道で出会った庭の多くは、外部との境となる塀や柵が無い、あるいは極めてファジーだ。

「子どものころはバケツに汲んだ水を肩に担いで日に何往復もした」という山頂の土地を、「日本一変わった」草木の楽園に変えた高橋武市さん。

 道北の滝上町の外れの小さな山の上に、高橋武市さんがたった1人で65年の歳月をかけて築いた陽殖園から眺める風景も、私たちの「庭」という概念を心地よく覆す。

山野の自然の植生のように見える野草の群れも、高橋さんが思い描き実現した庭の姿。品種改良を重ねたエゾクガイソウの異なる花の色にも注目。

 それは、どこまでも続く山道に迷い込み、いつのまにか色や形も様々な野草や花々が静かに太陽の恵みを享受する、ありのままの自然に取り囲まれているかのよう。

 否、高橋さんは「自然を再現している花園」なのだと言う。

「T字路や行き止まりのない道を」と造成した5kmの散策路も、先の風景を楽しみに歩めるようにと心を砕いた。

 祖父の代に入植した開拓農家の長男として、幼少時から水汲みや薪割り、登校前には作物を背負って町で売っていたと言う高橋さん。

 ある日、父が育てたレンゲツツジがあまりに美しくて数本持って出かけると、籠いっぱいの野菜より高値で売れる事実を目の当たりに。

園内の5つの池が水辺の生物を介して健やかな生態系を育み、周囲の空気に潤いを与える。

 痩せた土地での農業に苦労を重ねる一家を見てきた少年は「花を育ててここで生きていく」と決意する。それから半世紀以上、湧き上がるアイディアはどれも何もないところから1人で実現した。

 一時は大切な収入源だったサボテンが季節はずれの大寒波で全滅した経験から、冬は零下30度のこの地で越冬できる植物だけに絞る決心を。

開園時の4月末に赤いエリカの花で覆われる小山。

 平坦な土地に起伏をと、シャベルと一輪車のみで膨大な年月をかけ園内に2つの小山を築き、水辺が作る生命循環――ビオトープの実現に大地を削り窪地に池を造成した。

 農薬を一切使わず、草刈りも土地の整備も自らの手でこなすこの庭には、澄み切った空気に植物の芳香が溶けるいい香りが満ちる。

異なる色や形の花々が季節の巡りと共に現れる驚きに、リピーターも多数。

 広大な園での植物の育成の苦労はいかばかりかと尋ねれば「それぞれが“自活”できるように、その最初を作る。だから1人でできるんだよ」。

 高橋さんと庭は共に進化し続けている。

陽殖園(ようしょくえん)

所在地 北海道紋別郡滝上町あけぼの町
電話番号 0158-29-2391
営業時間 10:00~17:00(最終入園 14:30)
料金 1,000円
定休日 木曜(2021年春より火~木曜)
https://town.takinoue.hokkaido.jp/shokai/shisetsu/kankou/yoshokuen.html
※施設のサイトは無し。上記は町の紹介サイト
※2020年の営業は9月27日(日)まで。2021年は4月29日(木)~の予定

Feature

大地の鼓動に抱かれる
北海道ガーデン紀行へ

Text=Chiyo Sagae
Photographs=Asami Enomoto

この記事の掲載号

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CREA Traveller 2020年秋号

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定価1,350円 (税込)

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在は異なる場合があります。