シエラ・ネバダ山脈に守られ、「アンダルシアの宝石」アルハンブラを擁するグラナダは、エキゾティックで神秘的で官能的。19世紀ロマン主義の理想郷だったとされる。自然に恵まれ、中世のロマンスにあふれた異国趣味は、もちろんいまでも旅人の憧れだ。
レコンキスタ終焉の地は、滅びゆくイスラム王国の栄華を最後に伝え、陽の沈まぬスペイン帝国はじまりの地でもある。
グラナダの、アルハンブラ、ホテル、タウン情報を3回に渡り紹介。今回はアルハンブラ。
アルハンブラ
イスラム建築の最高傑作に語り継がれる哀しい物語
緑に覆われた丘の頂に、砦が見える。岩肌剥き出しの赤い箱を並べたような外観に、半信半疑で門をくぐる。イスラム建築の最高傑作のはずじゃ……。そう。アルハンブラは閉ざされた楽園。宮殿に入ることを許されたものだけが享受できる桃源郷の外見は、とても質素なのだ。
部屋から部屋への通路は直角に曲がり、段差で区切られる。暗い室内から、まぶしい外光の洗礼を受ける中庭へ。そしてまた薄暗い部屋へ。初めて訪れるものには、容易に所在がつかめない。迷路のよう。
そして「アラヤネスの中庭」にしばし感嘆。直線に刈り込まれたアラヤネス(銀梅花)の垣根が縁取る泉水に、コマレスの塔が映り込む。が、まだまだ序章。美しいがシンプルだ。
ようやく、評判の「ライオンのパティオ」へとたどり着く。ライオンの噴水を中心に優雅な回廊が巡らされ、四方の豪華な部屋へと結ばれる。ここは国王一族の居室空間で、いまは白い大理石を敷き詰めただけの中庭だが、往時は花が咲き乱れていたという。けれどもここには、血なまぐさい伝説も多く残る。王位継承の争い、恋愛がらみの惨劇……。
右:<光の宮殿アルハンブラ>宮殿を飾るのは繊細なスタッコや巧緻なモザイクだけではない。小さな窓やパティオの床に反射して入る、光による陰影もまた装飾
photographs:Yuji Ono
realization & text:Satsuki Ohsawa
coordination:Terumi Moriya