ダイヤモンドの歴史を刻み
愛の絆を結んでゆく

 少し遅い初夏。優雅に流れる運河の水面も傍の新緑も、陽光を浴びて宝石のようにキラキラ輝いている。

 ここは17世紀頃から“ダイヤモンドの街”として知られるアムステルダム。遡れば中世の時代に迫害を受けたユダヤ人が、信教の自由のあるこの地に安住を求めたことが発端という。

 携帯が容易で資産価値が高い宝石類を好んで所有した彼らは、アムステルダムでビジネスの礎を築いたのである。

 1854年創業のロイヤル・アッシャーは、この街で6代に継がれ、歴史と偉業を刻んできた名門ジュエラーだ。

 本社屋はその名も「DIAMANTSTRAAT(ダイヤモンド通り)」の突き当たりに、威風堂々とそびえ立つ。

 聞けば、かつてそこに80を超えるダイヤモンド工房が軒を連ね、職人たちが技を極めていたという。その様を頂点から見守り、彼らを牽引していたのがロイヤル・アッシャーなのだ。

 偉業といえば、まずは世界史上最大のダイヤモンド原石「カリナン」のカットを成功させたことだろう。1905年に南アフリカで発見されたそれは、なんと3,106カラット。

 当時、隆盛を極めていた英国国王エドワードVII世に献上されるも、「ダイヤモンドは輝いてこそ」とカットを勧めたのが、3代目ジョセフである。

 彼は'02年に58面を持つ「アッシャー・カット」を開発して一世を風靡。'03年には997カラットの原石「エクセルシオー」のカットを成功させ、“世界一のカッター”と呼ばれていた。

 ゆえに、“世界最大の原石のまま所有”を望んだ大英帝国国王とて、説得に応じたのであろう。

 こうして'08年、ジョセフは「カリナン」のカットに挑み、成功。

 切り出されたダイヤモンドのうち、最大530.2カラットの「カリナンI世」は英国王室の王笏に、317.4カラットの「カリナンII世」は王冠に埋め込まれ、'53年に現英国女王エリザベスII世の戴冠式で披露された。

 「カリナンⅢ世」(94.4カラット)と「カリナンⅣ世」(63.6カラット)も当時は王冠に飾られたが、現在はブローチにデザインし直され、女王の胸元でしばしばその優美な輝きが目撃されている。

Edit, Styling & Text=Mami Sekiya
Photo=Kanji Ishii, Hirofumi Kamaya(cutout)
Assistant Edit=Mai Ogawa
Special Thanks=LEKKER BIKES, WOLKERS