建築当時の輝きと
多彩なコレクションは必見
今でこそ、英国貴族がその邸宅を一般に公開するのはごく普通のことだが、ここは約200年も前からその門戸を開いてきた。
公爵夫妻が家を空ける間は見学者を受け入れ、かつては月に一度、分け隔てなく訪問者に夕食を振る舞っていたことも。

国王が訪れた際に滞在するステート・アパートメントには、ステート・ミュージック・ルームと名づけられた部屋があり、奥にバイオリンが掛けられたドアが見える。ドアの木目から楽器の落とす影まで、本物そのものだが、実はトロンプ・ルイユ(だまし絵)。ドアの下半分は本物のドアだが、上半分はドアも含め、画家の手で描かれたものだ。
ヤン・ファン・デル・ファールト 《ドアに掛けられたバイオリンと弓のトロンプ・ルイユ》1723年制作。
2018年3月には、総額3,200万ポンド以上、約10年間を費やした一大修復事業が完了した。
閉鎖されていた石切場からオリジナルと同じ色調の石を切り出して使用したり、23.5Kの金箔を窓枠にあしらったりと、17世紀と同じ素材、手法を用いるための細心の注意が払われた。
現在は建築当時の輝きを取り戻している。

チャペル脇の通路、チャペル・コリドーには古代エジプトのセクメト像から、現代アーティストの陶芸まで、年代を超えて多くの美術品が並んでいる。なかには16世紀のイタリア人画家ティントレットの迫力ある作品も。旧約聖書のストーリーを題材として取り上げながらも、絵の中の兵士の軍服は16世紀イタリアのものと思われる。
ティントレット《サムソンとデリラ》1600年代初頭制作。
館内の美術品は、古代エジプトの石像から現公爵の愛するコンテンポラリーな焼き物まで実に多彩。
特に第4代公爵夫人が実家から相続したオールドマスターの絵画や、第6代公爵が築いた彫刻コレクションなど、見どころはそこかしこに溢れている。

王族がくつろぐための部屋、ステート・ドローイング・ルームの壁を飾る巨大な4枚のタペストリー。システィーナ礼拝堂のタペストリーのためにラファエロが描いた《ラファエロのカルトン》をもとに、ロンドンの名工房モートレイクが手がけた。200年近い年月を経ても、進行中のメンテナンスにより往年のエレガントな姿を保っている。
モートレイク工房によるタペストリー 1630年代半ば制作。
館内見学の後は、デヴォンシャー公爵家の物語の余韻に浸りながら、18世紀の歴史的な庭師ケイパビリティ・ブラウンの手のかかった広大なガーデン散策もお忘れなく。

Chatsworth House
(チャッツワース・ハウス)
所在地 Chatsworth, Bakewell, Derbyshire DE45 1PP
電話番号 01246-565300
開館時間 ハウス&ガーデン 11:00~17:30(土・日曜 10:00~)、3月23日からは
11:00~17:30
休館日 1月7日~3月22日
入館料 21ポンド(ハウス、ガーデン)
https://www.chatsworth.org/

Feature
名作がこっそり潜む
英国の邸宅美術館へ
Text=Kazuyo Yasuda(KRess Europe)
Photo=Atsushi Hashimoto
Cooperation=VisitBritain