歴史的に世界の至宝をほしいままにしてきた英国には主要ミュージアムが数多く点在している。しかしその一方で独自の視点で蒐集された個人コレクションにしかないお宝も、また、あるのだ。
10年の修復を経て
華麗に甦った貴族の館
●Chatsworth House
(チャッツワース・ハウス)
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この館の始まりとなるペインテッド・ホールの天井と壁には、ユリウス・カエサルの人生が描かれている。これはカエサルと同様、軍人でもあったイングランド王ウィリアム3世を称えるために選ばれた題材。絵画が完成した1694年、第4代デヴォンシャー伯爵は王から公爵の爵位を与えられ、初代デヴォンシャー公爵が誕生した。
ルイ・ラグエル 1692-1694年制作。
ロンドンから電車と車で北へ約3時間。ダービーシャー州ピークディストリクト国立公園内にあるデヴォンシャー公爵家の住居、チャッツワース・ハウスは、英国で最も美しい邸宅といわれている。
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第6代デヴォンシャー公爵のもとで建てられたグレート・ダイニング・ルームでの初晩餐会は、1832年のこと。ゲストは、女王即位前のヴィクトリア王女だった。宮廷画家アンソニー・ヴァン・ダイクによる4点の肖像画をはじめ、オランダ出身で同時期に活躍したフランス・ハルスの作品などがこの部屋を今も飾っている。
写真上の右側、男性肖像画、アンソニー・ヴァン・ダイク 《アーサー・グッドウィンの肖像》1639年制作。
写真上の左側、女性肖像画、アンソニー・ヴァン・ダイク 《ジャンヌ・デ・ブロイの肖像》1634-35年制作。
300室を擁する現在の荘厳な館の原型が築かれたのは、17世紀後半、初代デヴォンシャー公爵のころ。
以来、華やかな一族のドラマがこの場所で繰り広げられてきた。
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そのなかには、著名な政治家や科学者、そして映画『ある公爵夫人の生涯』で人生が描かれた社交界の華、第5代公爵夫人のジョージアナ・キャベンディッシュや、第10代公爵の長男に嫁いだジョン・F・ケネディの妹キャスリーン・ケネディなどの名前も含まれる。
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オールドマスター・ドローイングズ・キャビネットと呼ばれる部屋では、この館が擁するラファエロ、ダ・ヴィンチ、ルーベンスといった巨匠による約3,000枚のドローイングを入れ替えながら展示。所蔵する2枚のレンブラント作品から、常時1点がこの部屋の壁を飾る。写真の作品は、実験的に描かれたテストピースと考えられている。
レンブラント・ファン・レイン《年老いた男の肖像画》1651年制作。
Text=Kazuyo Yasuda(KRess Europe)
Photo=Atsushi Hashimoto
Cooperation=VisitBritain