レストラン内の空間や料理構成の面白さをじっくり堪能する
そして待ちに待ったディナー。束になった細かいライトの照明がレストラン内に散らされたドラマティックな空間に、革のテーブルと椅子が配されている。広大なキッチン&サロンが浮かび上がる風景、キッチンに流れるジャズが静かにサロンにも聞こえて来て、押しつけではないスペクタクルに客はまず心を動かされます。
それから始まる夜のデギュスタションコースは、12皿と9皿のコースがあります。
前者を頼んだのですが、各皿は、まるで小説の中の章のように物語を持っているよう。例えば、まるでピュアな誕生をイメージさせる、パン生地で包んで焼いたトゥケ産ジャガイモ。やわらかく火を通したウサギのレバーと棘のような葉をもつサラダに灰をまぶしつけたその色と形状は、ある意味、愛憎の憎を思わせるよう。などなど、感性と感情を揺り動かされます。
そうそう、一番初めに渡されるメニューなのですが、それはボールのようにくしゃくしゃと丸められていて、それを手渡されるのは、ちょっと挑戦心を感じさせる驚きでした。しかし一番最後のデザートで、ボールに形作った砂糖細工の中に入れた緑色のアイスクリームを、サービスの女性が、皿の上に叩き付けるようにサービスするのを見て、合点がいった。料理構成に起があって結があったんだと。
とにかく、この面白さは体験していただかないとわからないと思うのですが、その面白さとともに、シェフは、地元の生産者とスクラムを組んで、知られざる生産者たちをもり立てていこうとする気概があるのが、さらにいい。時代と地方の未来を創っているのだという強い意志が伝わってきました。
2月最終週に発表されたミシュランガイドの格付けですが、この店が1ツ星で留まっていてくれたのを、少し嬉しく思いました。料理は3ツ星級、あるいはそれ以上ですが、今までのいい客層を守ったまま、いい料理をじっくりと創っていって欲しいと思います。
La grenouillère (ラ・グルヌイエール)
住所 Rue de la Grenouillère 62170 La Madeleine sous Montreuil
電話番号 +33-3-21-06-07-22
コース内容 ディナーコース12皿110ユーロ、9皿85ユーロ、ランチコース45ユーロ
伊藤文(いとうあや)
パリ在住食ジャーナリスト・翻訳家。立教大学卒業。コルドンブルー・パリ校で製菓を学んだ後、フランスにて食文化を中心に据えた取材を重ねる。訳書に『ロブション自伝』『招客必携』(いずれも中央公論新社)、著書に『パリを自転車で走ろう』(グラフィック社)など。日本復興支援協会GANBALO代表。
text:Aya Ito