「イタリアの緑のハート」で
インフィオラータを楽しむ
スペッロはイタリアの中央、ウンブリア州にあります。ウンブリア州は「イタリアの緑のハート」と呼ばれるとおり、緑豊かな地域です。その緑の大地に抱かれるようにあるとても小さな村スペッロは、とても古い歴史をもつ可愛らしい村です。
右:サンタ・マリア・マッジョーレ教会。
スペッロという名は、古代ローマ時代皇帝アウグストがこの地を「Splendissima colona(とても美しい村)」と呼んだことに由来するとも言われています。
その名の通り、緑の小高い丘を上るように作られた集落は、情緒溢れる石畳の坂、小さいながらも厳かで趣のある教会など、楚々とした美しさを湛えています。
右:花の路上絵の他にも、軒先に花飾りをしてお祭りを盛り上げます。
この村でインフィオラータのお祭りが本格的に行われるようになったのは、1831年、この祭りを継承していこうと有志が集まり、組合を発足してから。以降、村をあげて、とても大事にこのお祭りに取り組んできました。
ここでは、キリスト教の祭日「聖体祭」の日曜日に向けて、前日の夜から花で路上に絵を描き始めます。その作業は翌朝の聖体祭のメインとなる司祭の行進に向けて、夜を徹して行われます。
この村のインフィオラータの素晴らしいところは、すべて自然の草花を使って絵を描いているところ。この色が欲しいからといって着色したり、欠けている色を人工的なもので補ったりはしません。
この作業にあたり、まず花を集め、繊細なグラデーションを描けるよう花を細かく色分けをします。そして、下絵にしたがって花を並べる人、並べた花が乾燥しないように霧を吹く人、作業をする人たちのために食料や飲み物、休憩所などのケアをする人、それぞれが役割を担って携わります。それこそ村人総出で、夜を徹して、花の道を作り上げるのです。
そうして出来上がった絵は、本当にこれが自然の色だけでできているのかと、信じられないほど。綿密な色遣いで描き上げられています。
それは、ここまで繊細な濃淡を出せるほど自然には色が溢れているということであり、改めて自然の美しさ、その素晴らしさを思い知らされます。
花で描かれた美しき絵は、その年の一番の作品を決める品評会の後、聖体祭のイベントとして司教がその上を歩いて渡り、お祭りのフィナーレを迎えます。徹夜の作業が、翌朝には散ってしまい、ちょっともったいない気もしますが、キリスト教の重要な行事のために用意されたものですから、そこまで含めて大切に拝見したいものです。
右:徹夜でようやく完成した花の絵の前で下絵を持って記念撮影。
さてさて、スペッロで伝承されているこの美しきお祭りは、国を越え、時を超え伝わり、いつしか宗教色が薄れて、美しい花のお祭り、花を使ったアートとして世界中に普及していきました。1980年代には著名なアーティストもその制作に加わるようになり、世界各地で美しき花の絨毯絵が披露されるイベントも増えていくこととなります。
日本でもこのインフィオラータは、震災後の復興を願って1997年より神戸で行われています。
国を越え、時を超え、宗教を超え、広まっていく花のアート。私たちを生かし、癒してくれる自然のパワーを集めたこのアートを、もし機会があったらぜひ鑑賞に出かけてみてください。
スペッロでのインフィオラータの公式ページ
http://infioratespello.it/
神戸でのインフィオラータの公式ページ
http://www.infiorata-kobe.net/
藤原亮子 (ふじはら りょうこ)
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、'09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、取材・撮影・執筆活動をしつつ、イタリアの伸びやかな景色をテーマに写真作品も制作中。イタリアでの日々をつづったフェイスブックはこちら。 https://www.facebook.com/chococogogo
文・撮影=藤原亮子