“ミッシェル・ブラス”のドキュメンタリーフィルムとは
新作“Entre les bras”は、2009年、63歳になったミッシェルが、長男のセバスチャンに、店の指揮を任せることを決心し、伝統や哲学を受け継がせていく、そんな親子のストーリーを、1年間に亘って撮影した作品です。
Entre les brasは、「腕に抱かれて」という意味ですが、les Bras、つまり、「ブラス家」の間ということも表す言葉遊び。ミッシェルからセバスチャンに、どうやってこの魂が受け継がれていくか、ということを、四季を追いながら、淡々とした親子の会話や、ブラス家の歴史を通して、伝えていく内容になっています。
ミッシェルが作り出したさまざまなスペシャリテを、どうやってセバスチャンが今のテーブルに表現していくか。ミッシェルは、シェフとして厨房には立たずとも、常に後方に立って、セバスチャンをサポートしています。セバスチャンが、父親が築き上げたレシピに、自分の記憶を織り込もうと、創作に取り組む姿が、淡々とフィルムに落とし込まれているのが魅力的でした。「新しいものを創る、というよりも、継承していきたい」というセバスチャンの言葉が心に残りました。
そして、なんといっても広大な自然に囲まれたレストランの立地。記憶に刻まれるそのポエティックな世界が、料理を通して表現されており、料理の魅力の原点が何たるかを振り返ってみたくなる、そんな秀作です。日本の洞爺湖にあるザ・ウィンザーホテルの「ミッシェル・ブラス トーヤジャポン」も、美しい風景とともに登場しています。
この作品、フランスでは3月14日からのロードショーですが、2月に開催されるベルリン国際映画祭の料理部門にも出品されています。さらにパリで3月11~13日に開催される料理イベント“オムニヴォール”でもロードショーに先立ち放映されることに。料理に込められたドラマをみてください。
伊藤文(いとうあや)
パリ在住食ジャーナリスト・翻訳家。立教大学卒業。コルドンブルー・パリ校で製菓を学んだ後、フランスにて食文化を中心に据えた取材を重ねる。訳書に『ロブション自伝』『招客必携』(いずれも中央公論新社)、著書に『パリを自転車で走ろう』(グラフィック社)など。日本復興支援協会GANBALO代表。
text:Aya Ito