時間とお金をかけてちゃんと作った作品

伊藤 「エール」はカントリーソングで、バンジョーやバイオリンが軽快に飛び回っていて、井上苑子的パーティーソングって感じ。音楽制作目線でいうと凄く時間とお金をかけてちゃんと作っているって印象で、スタジオの空気を感じられる作品になっていますね。あと、やっぱり井上苑子の歌は、聴くだけでも笑顔が見えて、その一番のチャームポイントがど真ん中にいて楽しい。

山口 サウンド感での差別化はしっかりできていますね。そして、クリエイターとしての伊藤涼に刺激を与える存在のようですね。カップリング曲の「ファーストデート」の作詞作曲クレジットに伊藤さんの名前がありますよ。

伊藤 そうなんですよ。今回は作曲家として参加しています。CWF(コーライティングファーム/山口が塾長、伊藤が副塾長を務める「山口ゼミ」修了生による、作曲家チーム〈外部サイト〉)メンバーの安楽謙一、アーティスト本人を含む5人によるコーライティング作品で、いいケミストリーが生まれたと思います。

山口 この組み合わせは面白いですね。ここに名前を連ねているKIKIは、僕らが企画した「企業コラボミュージック」のオーディションで出会った岐阜県在住のシンガーソングライターです。nana(外部サイト)からの応募でしたね。年齢が井上苑子に近いし、声質や言葉の選び方に親和性を感じます。CWFメンバーの安楽謙一は、ジャニーズでも実績があって、オールマイティですが、着地点を見つけて誘導できるクリエイターだなという印象を持っています。

伊藤 そうですね。いろいろな個性がぶつかり合って面白い曲になっていますので、ぜひ多くの人に聴いてほしいです。

山口 さて、そんな井上苑子の「エール」からはどんなイメージが浮かぶんでしょうか? 恒例の妄想分析をお願いします。

伊藤 苛々する。頑張れ! って何度も言われて。そのたびに心の中で自分は頑張っているのにと思いながらも、愛想笑いを彼らに返す。そして息が詰まりそうになって、また小さく小さくなっていく。体育館に吹き込む冬の風は、僕の心を見透かして笑う。

 もう逃げてしまおうと思ったとき、君は僕の隣にそっと座った。君は笑顔で僕の肩に手を置く、そして真剣な顔になる。安心する。なんでだろう? 君がいると安心する。そういえば君は頑張れとは言わない。なんて言うんだろう? ここには居ないはずの君は、僕の心を見透かして隣にいる。

山口 井上苑子世代に伊藤涼がタイムワープしたみたいですね(笑)。

井上苑子「エール」
ユニバーサル ミュージック 2016年12月7日発売
初回限定盤[CD+DVD]1,667円、通常盤[CD]1,111円(税抜)
■井上苑子は1997年生まれ、兵庫県出身。2015年7月にミニアルバム『#17』でメジャーデビューを果たし、miwa、大原櫻子などに続くSNS新世代のギター女子として注目を浴びる。同年9月に公開された映画『私たちのハァハァ』では主演を務めた。2016年3月にはファーストフルアルバム『Hello』をリリースした。
■「エール」作詞/井上苑子 作曲・編曲/白戸佑輔
http://www.inoue-sonoko.com/

2016.11.30(水)
文=山口哲一、伊藤涼