ヨーロッパ最古の登山鉄道の今昔

グラウビュンデン州のツォーツ付近をのんびりと走るレーティッシュ鉄道。

 グラウビュンデン州のレーティッシュ鉄道の地図はカラーで可愛らしい絵が描かれています。アイガー、メンヒ、ユングフラウの三山の景色が壮大なグリンデルワルト村。フィルストエリアに位置するファウルホルン山頂から見たパノラマの地図には、しっかりと山の名前と標高が書かれており、生真面目なスイス人の気質を感じます。

美しいカラーページ、精細なイラストなど、当時の印刷技術の高さにも驚きます。

 ヨーロッパ最古の登山鉄道は、フィッツナウとリギ・クルムを結ぶ、1871年開通のリギ登山鉄道。レールの歯車と車両の下の歯車を噛み合わせて急勾配を上るラックレールを使用しています。1873年には日本の岩倉使節団が訪れているそうです。

 アルト・ゴルダウとリギ・クルムを結ぶ登山鉄道の開通は1875年。ヨーロッパ最古の登山鉄道という由来からなのでしょうか、湖が綺麗なルツェルンの街が起点になるので、街の地図はここだけカラーでした。大きな観光地として栄えていたのが想像できます。

ルツェルンの市街図。
1750メートルのリギ・クルムから見たパノラマ景色。細かいです。
独特のタッチが印象的なチョコレートの広告ページ。

 締めくくりは、スイスチョコレートの広告。1875年にチョコレートとミルクの調合に世界で初めて成功したのはスイス。ちなみに1年間にスイス人が食べるチョコレートの量はなんと11キロ!(日本は2キロだそうですが、本当に2キロも食べているでしょうか……)。

 歴史や趣を感じる1冊。当時の旅の最大限の情報が詰まっている、とても貴重な本に出合いました。少しずつ読み解いてタイムスリップを楽しみつつ、当時の人々が何を想い旅に出かけたのか、思いを馳せてみたいと思います。

西村志津(にしむらしづ)
山に魅せられ、日本山岳ガイド協会認定の登山ガイドとなる。2012年の結婚を機にスイスへ移住。コーディネーターやハイキング・スキーガイドとしてスイスと日本の架け橋になる活動に努める。一方で心と身体の健康を伝えるべくヨガインストラクターとしての一面も持つ。現在、子育てにも奮闘中。共訳書に『マッターホルン最前線』(東京新聞出版局)。

Column

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文・撮影=西村志津