イスタンブールの下町にある小さな本屋さん

小さなブックカフェ「PAGES」は古いトルコ式家屋を改装したもの。

 イスタンブールのアイワンサライ区は、古の雰囲気が残る下町エリア。ここの有名な観光スポット、カーリエ博物館の向かいに「PAGES」という名の小さな本屋がたたずんでいる。細長い、緑色の3階建ての建物だ。

 入ってみると、どこかヨーロッパの住居に通されたかのようなこざっぱりとした空間が広がっていて、そこここに本が並べられている。ところどころ、座って本が読めるようなイスやソファが置いてあり、本を売ることよりもくつろげることの方が優先されているのが感じられる。

 実はここ、シリアの戦闘から逃れて来たシリア人サメル・アルカドゥリ氏がオープンしたブックカフェ。並んでいるのはほとんどがアラビア語書籍で、一部英語の本もある。地下は子ども向け書籍の階で、2階はカフェになっている。

誰もが、思い思いに本を手に取って読みふけることのできるゆったり空間。

 店内にはジャズやシリア音楽がかかっており、カルダモンの香りがするコーヒーをいただきながらゆっくり読書できるような、そんな居心地のよさがここにはある。本は販売されているが、安い料金で借りることもできるし、ここで読む分には無料だ。ときおりコンサート、映画鑑賞会、シリア人作家による朗読会、子ども向けワークショップなど、さまざまなイベントも開催されている。それらは全て、無料だ。

左:平積みの書籍たち。ちょっと読み込まれた形跡のあるものもちらほら。
右:昨年末に行われた子ども向けイベントに参加した、トルコ在住のシリア人のママたち。

 サメル氏は、シリア・ハマ出身の画家。首都ダマスカスで芸術学部を出た後、グラフィックデザイナーとして活躍しながら出版社を営んでおり、妻は絵本作家である。「僕はいろいろな国の新聞などに文章も書いていてね。そこではっきりとアサドは独裁主義者だ、人殺しだ、と批判したために逮捕されることになってしまった。それでトルコに逃れて来たんだよ」とそのいきさつを説明してくれた。

アーティスト的な雰囲気のサメル氏、穏やかな口調ながらも「シリアで起きていることは戦争ではなく革命だった。今は大国がシリアで戦争しているだけ」と語る。
この日は、世界中の風刺漫画家が戦争と平和をテーマに描いた絵画展が開催されていた。

文・撮影=安尾亜紀