上等なマシーンでも絶対に出せない味
それでもジェミルさんは絶対にマシーンを使わない。どんなに注文が立て込んでも一杯一杯、ジェズベでていねいに作り上げる。水とコーヒーがよく絡まり合うよう、スプーンでじっくりとかき混ぜ、それから火にかける。ちょうどよいあんばいでさっとジェズベを火からあげ、そのふくよかな泡を含んだコーヒーを、小さなカップにとろーりと注ぐ。カップひたひたに2杯分が、彼が一回で作る最大量だ。
そのジェミルさんの手作りコーヒーは、他の店で淹れられるマシーンのものに比べると格段に美味しい。きちんと混ざり合った液体が舌にここちよく、程よい苦さが味わい深い。
こんなに美味しいなんて、何か豆にも違いがあるのだろうか? と聞いてみたところ「決まったところからだけ仕入れているけれどね。何も特別な豆ってわけじゃないよ」とジェミルさんはいう。「だけど自分で豆を選んで、じっくり焙煎して、そして挽いたものを新鮮なうちに消費するようにしている。その過程をきちんとすれば美味しくなるんだよ」と、特に気張った感じもない。そうか、それだけのことでこんなに美味しくなるのか。
そんなわけで、マンダバトマズはいつも人でいっぱいだ。アフターランチに立ち寄る人、授業帰りの学生、友達と待ち合わせるOLなどが、気軽に立ち寄って美味しいトルココーヒーを味わい、そしてさっと去っていく。誰もがこの店で過ごすそんな一瞬を生活の一部にきちんと組み込んでいるのだろう。
右:厨房は小さいが、いつも常連さんでいっぱい。
マンダバトマズ(Mandabatmaz)
所在地 İstiklal Caddesi, Olivyo Geçidi No:1/A Beyoğlu İstanbul
営業時間 9:00~23:00(毎日)
安尾 亜紀 (やすお あき)
イスタンブール在住。イスタンブール大学大学院女性学研究所卒。女性誌や料理誌、報道関係まで幅広い分野でライター・コーディネーターを担当。トルコの「おいしい・楽しい・新しい」を中心に、All Aboutトルコ・イスタンブールでも情報発信中。
文・撮影=安尾亜紀