コーヒーをワインのように楽しむパリの新潮流

 フランスはイタリアに並ぶコーヒー消費国ですが、意外なことに、今まで各人がコーヒーの質にこだわるようなことはあまりありませんでした。行きつけのカフェで、仕事前にカウンターで一杯、などという習慣はありますが、味についてとやかく言う人は案外いない。ガストロノミーの国なのに、と、私自身不思議に感じていましたが、大手の会社がマーケットを握っているということも背景にあったようです。

 ところが最近、コーヒーをワインのように楽しもうとする若い人たちが増えてきて、その愉しみをパブリックに伝えようという動きが活発です。

 例えば1年ほど前に立ち上げられた“フロッグ・ファイト”というアソシエーションでは、友人同士でバリスタ選手権を開催したり、アマチュアを含めてコーヒーのテイスティングをしたり。そんなムーブメントの中で生まれ、これからのコーヒー界を引っ張っていくだろう店の一つが“クチューム・カフェ”(今年3月にオープン)です。オーナーは2人で、フランス・リヨン生まれのアントワーヌ・ネティアンとオーストラリア人のトム・クラーク。

 ネティアンはもともと映画関係の仕事に携わっていたのですが、映画の撮影でメルボルンに足を運んだ時にコーヒーのおいしさに触れて、焙煎の世界に。そしてオーストリアの焙煎者コンクールで、チャンピオンになるまでに腕を上げます。一方のクラークは、パリ政治学院に留学した後、チェコのあるコーヒーブランドをフランスに紹介するというプロジェクトを推し進めてきました。そしてこの2人がパリで出会って意気投合。店をオープンすることにしたのだそうです。“フランスに、本物のコーヒーの文化を伝えて、新しい慣習として根づかせたい”というのが2人の思い。それが店名の“Coutume(慣習)”にも繋がったのだそうです。

text&photographs:Aya Ito