俳優は年齢が上がるにつれて恋愛作品の主演から遠のきます。それは世間のステレオタイプなライフステージに合わせて役がつくられるから。40代なら結婚して子どももいるのが当たり前という前提でドラマがつくられすぎているのです。そうなると、40代なら良妻賢母(!)役をあてがわれることが多くなります。

 でも、人生にいろんな選択肢がある時代、いろんな年代の人のいろんな恋愛作品が世の中にあってもいい。各年代でそれを演じられる俳優が増えれば、世に出る作品のバリエーションも増えるのではないかという期待が高まります。火10枠は本当にいい俳優を抜擢してくれました!

転機となった「やんごとなき一族」の松本劇場”

「仮面ライダー電王」でのデビュー以来、「コウノドリ」「麒麟がくる」などこれまで多くの作品に出演し、実力を発揮してきた俳優である松本若菜。2017年の映画『愚行録』での演技が評価され、第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞するなど、その演技力は折り紙つきではありますが、世間の注目を集めたのはなんといっても「やんごとなき一族」で演じた、主人公・佐都(土屋太鳳)の前に立ちはだかる気丈な義姉・美保子役でしょう。

 次期女主人の立場になった佐都のことを目の敵にしていて、義父と結託して佐都を家から追い出そうとするヒール役です。絢爛豪華でありながら魑魅魍魎うごめく一族の一員ですが、実は出自が複雑で、由緒正しい家柄ではなく愛人の娘だったというバックボーンが。成り上がりの向上心が根底にありつつ、同じく上流階級の世界にやってきた主人公を追い込む、一筋縄ではいかない役でした。

 その役ができたのも、ずっと陰になり日向になり地道に俳優の仕事をこなしてきたから。主演を支えるバイプレイヤーとしての力は十分でありながら、いきなりスポットライトを当てられてもしっかりと輝くことができるのです。それが証明されたのが本作でした。

 特に“松本劇場”とよばれた怪演は視聴者の目に留まるものでした。悪女キャラクターを最大化させるだけでなく、ユニークな表情やコミカルな動き、替え歌などを繰り出し、クセ強キャラをつくり上げたのです。まさに自己の優位性を態度や言葉で主張して上下関係の格付けをしあう“マウンティング合戦”が見ものだった沢尻エリカ主演「ファーストクラス」に出演していても違和感がなかったであろう、堂々たる立ち居振る舞い。気品あふれる佇まいがベースにあるからこそ光る演技でした。

 注目を集めた「ドブネズミ チューチュー」や「いっちゃってる!」というワードはアドリブだったとか。ある種演劇的でもあるアドリブを、あの狂気的な役の中で繰り出せたのはこれまでの土台があったから。美保子という役をよりオーバーにしあげ、スポットライトを浴びるキャラクターへと昇華できたのは、もともとお笑い好きであるという素質も関係がありそうです。振り切った演技はコント的で、その瞬発力を見るとNHKのオムニバスコント「LIFE!」に出演して活躍する画がすぐに浮かびます。

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2024.10.17(木)
文=綿貫大介