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3人が「今じゃないとダメなんだ」と訴えたんです

毎熊 3人が何か始めようとしているという話は漏れ聞いていて、脚本の初稿が上がった段階で、Engawaのメンバー全員が呼ばれました。脚本を読ませてもらって、「来月撮りたい」と言われて、「えー、来月!?」って。

林・藤原 (笑)。

毎熊 その脚本も相当な分量があって、普通に撮ったら超大作の部類に入る。それで結構揉めたんだよね?(笑) 林さんとも季節とも。季節と真司も喧嘩していて。

藤原 僕らよく喧嘩するんです(笑)。

毎熊 それだけ遠慮なく言い合える関係ということなんですけど。僕は、長編を季節主演で撮るのなら、ちゃんと出口(上映先)まで考えて、人に観てもらいたい。焦らずにもっと時間をかけて練ってから撮った方がいいんじゃないかなと思ったんですが、3人はすごく熱量が上がっていて、「今じゃないとダメなんだ」と訴えた。意見がぶつかってしまったので、僕は一旦離れることにしました。

藤原 結局、4時間弱くらい撮ったんですよね? それを最終的にこのおふたりが編集を頑張ってくださって、70分になりました。

 仲間内で作っていたので、みんな撮ったものを見たいだろうなと、一応ストーリー通りに繋げた状態でした。もちろん、削るつもりではいましたけど、まさかこんなに短くなるとは(笑)。

毎熊 現場はすごい熱量だったので、僕はある程度静観していた方がいいだろうなと思っていました。現場で撮ったものに思い入れがあり過ぎるとシーンをカットするのはなかなか難しいだろうから、ちょっと距離のある僕なら、思い切って切ることができるかと。カットし難い良いシーンがたくさんあったんですけどね。

 あれから6年経って、あの時でないと撮れないものがあったというのは、今はすごくわかる気がしますね。後編に続く

藤原季節(ふじわら・きせつ)

1993年生まれ、北海道出身。俳優。小劇場での活動を経て2013年より俳優としてのキャリアをスタート。翌年の映画『人狼ゲーム ビーストサイド』を皮切りに、『ケンとカズ』(16年)『全員死刑』(17年)『止められるか、俺たちを』(18年)などに出演。2020年には、主演を務めた『佐々木、イン、マイマイン』がスマッシュヒットを記録し、『his』(20年)とあわせて同年の第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。翌年には第13回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞するなど、デビュー以降、映画のみならずドラマ、舞台など幅広く活動を続けている。映画『辰巳』が現在公開中。著書に『めぐるきせつ』(ワニブックス)。

毎熊克哉(まいぐま・かつや)

1987年生まれ、広島県出身。俳優。主演を務めた2016年公開の映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールのスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017の新人男優賞、第31回高崎映画祭の最優秀新進男優賞を受賞。最近の主な出演映画に『愛なのに』『猫は逃げた』『冬薔薇』『妖怪シェアハウス─白馬の王子様じゃないん怪─』『ビリーバーズ』(全て22年)、『そして僕は途方に暮れる』『世界の終わりから』(23年)、ドラマに大河ドラマ『光る君へ』(24年 NHK)など。現在『好きなオトコと別れたい』(テレビ東京)に出演中。

林 知亜季(はやし・ともあき)

1984年生まれ、神奈川県出身。映画監督。高校時代の3年間、アメリカのニューヨーク州で過ごす。帰国後、演劇のワークショップに参加。知り合った仲間とEngawa Films Projectを立ち上げ、映像制作を始める。Engawa Films Projectの撮影、監督を主に担当。2012年、短編映画『VOEL』がショートショート フィルムフェスティバルに入選する。15年にはパリで1年間ドキュメンタリーやファッションPVなどを制作。『東京ランドマーク』は、初の長編映画となる。

『東京ランドマーク』

店長のつまらない会話をやり過ごしながら、コンビニでアルバイトをしている稔(藤原季節)。一人暮らしの稔の部屋には、実家暮らしで働いていない友人のタケ(義山真司)がよく遊びに来ては、所在ない時間を共に過ごしていた。ある日、ひょんなことから家出少女・桜子(鈴木セイナ)が稔の部屋に転がり込んできた。家に返そうとしても桜子はなかなか帰らない。そこで、稔はある突拍子もない作戦を思いつく。

監督・脚本:林 知亜季

出演:藤原季節、鈴木セイナ、義山真司、浅沼ファティ、石原滉也、巽よしこ、西尻幸嗣、幸田尚子、大西信満

配給:Engawa Films Project
ⒸEngawa Films Project 2024
2024年5月18日(土)よりK'sシネマ(新宿)、7月6日(土)より第七藝術劇場(大阪)、シネマスコーレ(名古屋)にて公開
https://sites.google.com/view/tokyolandmark/home

次の話を読む「俳優は迷子になりやすい仕事」 毎熊克哉が“出演していないのに” 『東京ランドマーク』を応援するワケ

2024.05.24(金)
文=黒瀬朋子
撮影=平松市聖