この記事の連載

サティア・ナデラの就任による変化

──マイクロソフト社ではなぜジェンダー平等な働き方ができるのでしょうか。

 性別に限らず、国籍、人種、文化の異なる人が集まってチームになっているので、常識や道徳的なものが同じとは限らず、むしろ「違う」ことがあたりまえという文化が根付いているからだと思います。

 たとえば、僕のアメリカ人の友達の奥さんはウクライナ人ですが、僕にはロシア人の友人もいます。また、同僚にはイスラム教の信者もいれば、別の宗教を信仰している人もいます。どちらが正しいとか間違っているとかではなく、「相手のことを理解して認める」エンパシー力(自分とは異なる相手の意見を知的に理解する力)で物事を進めることが、インターナショナルチームには不可欠ということだと思います。

──現CEOのサティア・ナデラ氏が就任したことで、マイクロソフト社の経営方針や社風が大きく変わったといわれています。

 スティーブ・バルマーCEO時代は、営業バリバリのエネルギッシュなカルチャーが会社に根付いていました。社内でも2つのチームをプレゼンで競わせてどちらかを採用するというやり方をしていたので、組織内に緊迫感があり、市場の優位性を守り抜くために、競合他社への競争心を激しく見せる場面もありました。

 2014年にサティア・ナデラがCEOに就任したとき、彼は「ダイバーシティ&インクルージョン」と「グロースマインド」を掲げ、社内改革に取り組みました。

 彼は自分の子どもが障がいを持って生まれてきたこともあって、とにかく人がみな「違う」ことを大事にしています。「自分だけよければいい」ではなく、その人がその人らしい能力を存分に発揮できる場を、みんなで助け合ってつくっていこうというマインドを徹底的に周知したのです。

 「グロースマインドセット」は、人は変わり、成長するものだという考え方です。いまはできなくても、勉強して変わろうという人を応援するとともに、他人を応援しサポートする人を評価する人事制度を強化した結果、みんなで助け合いながらお互いに成長できる働きやすい場に生まれ変わりました。そんな社内カルチャーのもと業績的にも目覚ましい飛躍をとげたのです。

 外資系というと、「他者を蹴落として自分だけのし上がる。失敗したら即ファイアー(解雇)」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、そんな文化とは無縁です。

──「多様性を受け入れる」「他者を尊重する」カルチャーのある会社が、女性にも働きやすいということでしょうか。

 「女性に」ではなく、誰にでも働きやすい会社だということです。

 実際、マイクロソフト社内ではディスカッションで意見が食い違うことがあっても、感情的になったり揉めたりする場面は一度も見たことがありません。「自分はこう思う」と意見を述べやすい環境があり、十分に納得できないことがあっても「自分の理解を助けてくれてありがとう」と言えるような良好なコミュニケーションが取れています。

 日本にいるときは反対意見を述べるのは精神的負担が大きく、言いにくい雰囲気がありましたが、建設的な相互理解のためには反対意見を正しく伝えることも重要なんだと、あらためて感じています。

2024.01.19(金)
文=相澤洋美
撮影=三宅史郎