ここ数年、従来の端正なジェントルマンのイメージを打ち破る作品が目につく竹野内 豊さん。最新作『唄う六人の女』では、亡き父が遺した山林の整理をしに戻った故郷で、突然、六人の女たちに監禁される写真家、萱島を演じている。言葉を発しない彼女たちとの目線やボディランゲージを通して、その真意を探ろうと疑心暗鬼となる表情や、驚いたり、懇願したり、ミドルエイジの無防備な弱さをコミカルに演じている。

 国際的な評価を得ている石橋義正監督の10年ぶりの新作で、共同プロデューサーを山田孝之さんが務めていることでも話題となっている今作。京都、南丹市での貴重な原生林での許可を得て撮影された作品で、改めて日本の森の美しさと、今直面している問題を知ったという。作品に込められているメッセージを伺った。

子供の頃は毎日山と川に日が暮れるまで遊んでいた

――撮影は昨年、京都府南丹市や奈良県の奥深い山で行われたと聞いています。奥深い山で監禁されて、山から抜け出せなくなる男の物語ですが、この企画に引きつけられた理由は?

 石橋義正監督と組みたいと思ったのが最初の動機です。2011年に発表された石橋監督の『ミロクローゼ』という作品にでていらした原田美枝子さんから、面白い監督に会ったと伺ったことがあって、加えて2014年に『ニシノユキヒコの恋と冒険』に僕が出演した際に、プロデューサーの方が「『ミロクローゼ』という映画を撮った石橋監督の作品はご興味ありますか? 面白いので是非ご覧になってみてください」とおっしゃっていて、さっそく拝見したのですが、世界観が個性的で面白かったんです。それが石橋監督作品との出会いでした。いつかご縁があったら、ぜひ一度石橋組に参加してみたいと密かに思っていました。

――いざ、主演でお話が来たときの感想は?

 コロナ禍に入る前、たしか2018年くらいに、石橋監督と会って、10枚ほどの簡単なプロットを見せて頂いたんですが、読み物として想像する面白さはあったんですけど、独特な世界観を持つ石橋監督が描きたいものが、はたしてどこまで観る人に伝わるのか、石橋監督が伝えたいことが、多くの方々に届けばいいなと思っていました。

 僕はデビューしてから、わりと都会的なイメージの作品に出ることが多かったせいか、自然の中にいるイメージがないと言われることが時々あるんですけど、子供の頃は毎日山と川で日が暮れるまで遊んでいて、そこで捕まえた虫や爬虫類、カエルでもなんでも家に持ち帰って母と姉を驚かせるような、そんな少年時代を過ごしていたんですね(笑)。

 なので、都会で売れっ子写真家として暮らしている萱島が、40年ぶりに山深い故郷に戻って、そこから出られなくなるという物語は、言葉ではうまく説明できないんですけど、肌感覚で演じられるかなと思っていたんです。でも、実際に台本ができてきて読んだら、これはもう石橋監督の頭の中だけに成立した世界観があるんだなと。たぶん、撮影中六人の女を演じた女優さんたちも、スタッフも誰も本当の石橋監督の脳内は分からなかったと思います(笑)

2023.11.14(火)
文=金原由佳
撮影=深野未季
ヘアメイク=竹野内宏明(HIROAKI TAKENOUCHI)
スタイリスト=下田梨来(Rina Shimoda)