この点について、モーランドのような人口学者は人口規模に注目する訳だが、ガローはそれだけでなく、「人的資本の形成」が極めて重要な役割を果たしたと考える。つまり、一八〇〇年以前は「マルサスの罠」で経済が停滞していたものの、その裏では生活水準の改善と教育という人的資本への投資を通じて人口における質の高い人材の割合の増加が進んでおり、これがマルサス的停滞から脱却して「飛躍」する契機になったというのである。

 そして、この「飛躍」のタイミングが国によって異なり、その結果、国家間の経済格差が拡大した理由も、この質的構成の違いによるものとして説明できるとした。

 日本では超少子化・超高齢化が社会問題となり、経済成長のために労働人口をいかに増やすかが議論されているが、これまではその労働力の中身については議論されてこなかった。岸田内閣の「新しい資本主義」で初めて、「人への投資」が大きな柱のひとつとして打ち出されたが、ガローの理論は正にその重要性を示唆しているのである。

 一人の英雄譚として或いは共産主義革命のような唯物史観として、ストーリー仕立てで説明してきた旧来の歴史に対して、本書のような人口動態を始め、資産価格や遺伝子などの膨大なデータ解析に基づいて説明する新しい歴史学の行方に注目していきたい。

2023.03.01(水)
文=堀内 勉(多摩大学社会的投資研究所教授・副所長)