黒板・ホワイトボードメーカーの日学が主催する「日学・黒板アート甲子園®」は、全国の中高生が参加する各校チーム単位による黒板アート作品を競う大会で、2015年から毎年開催されています。通算8回目となる今回は、メイン大会(高校生の部)で71校、ジュニアの部(中学生)で51校が参加し、過去最多の参加人数を更新。合計209作品が競い合い、大変な盛り上がりをみせました。

 今回、見事メイン大会(高校生)で最優秀賞を受賞したのは、長野県エクセラン高等学校の4人チームで、作品名は「空想逃避行」。

制作エピソード

 どこまでも続く険しく閉鎖的な山並み。空には厚く暗い雲が浮かび、無機質な電柱を追い越していく。教室の机で過ごす日々は、憂鬱で息苦しい。だから僕は陽炎のような優しい世界に沈んでいく。

 ペン画のようにするためにチョークをカッターで削り線の細さにこだわりました。モノクロで表現する上で描き込む場所と地を残す場所のメリハリを意識しています。主人公が感じている閉鎖的な心境と私たちのコロナ禍での生活を重ね合わせ描きました。

審査員 武蔵野美術大学 三澤一実教授のコメント

 黒板の地色と白チョークを中心にモノトーンに近い描写の中で、色を差した鶏のとさかが目を引きます。白色のチョークの使い方を工夫し、特に鶏の首から胸にかけての描写が秀一です。画面に配置された電柱や建物、机や椅子などの人工物は、山頂の旗を除き決してまっすぐ立つことはなく、その空間を泳ごうとしている金魚、そして鶏。命ある生き物に宿る意志がまるで彼らの心情を物語っているようです。

 電線は異なる世界をつなぐ象徴なのか、電線に結ばれた御幣は不浄と神聖の境目なのか。だとすると画面奥が神聖な世界なのでしょうか。机の脚にも注連縄が結ばれ、画面全体が襖絵として描かれています。襖を開いたその先には何があるのでしょう。多くの暗示を含み、今の閉塞感や不安に立ち向かおうとしている高校生の静かなそして強い意志が、山頂に向かう小さな人間にも感じられます。

 また、ジュニアの部(中学生)の最優秀賞には、神奈川県松田町立松田中学校の18人チームが手掛けた「神奈川東海道遠望之圖」が受賞。

制作エピソード

 丹沢山地、箱根山、富士山麓。本校の脇を流れる酒匂川は、足柄平野を抜けて相模湾へ。東海道は人やモノだけでなく、文化や歴史、時代も駆け抜けていきました。私たちが暮らす足柄西湘地域の風土やイメージを題材に、過去・現在・未来を見つめる自分たちの姿を描きました。

 こだわったのは、ビルや橋などを立体的に見せる描き方や、花火などの「光」の表現です。上級生はより難しい表現に挑戦したので、何度も描き直して苦しいときもありました。そのぶん、完成したときの達成感はとても大きかったです。時空をこえて、伝わる想い。花火のように、強く、熱く、まぶしく、時に儚く。黒板アートを愛するすべての人へ。

審査員 チョークアーティスト 熊沢加奈子先生のコメント

 主役の男女をセンターに、四季折々の風景を見事に調和させ、色使い、レイアウト、ストーリー構成に感動いたしました。ジュニア部門作品で非常にスキルも高く素晴らしい作品だと思います。

 黒板アート甲子園の特徴は、黒板に描かれた1つの作品を数人のチームを組んで共同制作すること。コロナ禍で学校生活においても様々な制約を受ける中、生徒たちが1つのことに打ち込める貴重な機会として、非常に良い思い出が作れたと参加者からの声も多かったそう。

 来年も再び、若い才能が集結した、あっと驚くような素敵なアート作品に出合えるかもしれません。

日学・黒板アート甲子園®︎2022大会 公式サイト
https://kokubanart.nichigaku.co.jp/

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2022.11.04(金)
文=CREA編集部