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同じ情熱を持って取り組める題材を選ぶ

――渡辺さんはどのようにして佐野さんを“つついてみた”のでしょうか。

渡辺 会えば会うほど佐野さんは面白いんですよ。私は毎回誰かとものをつくる上で、まず自分と相手(プロデューサーや監督)が一番納得して共有できる最大公約数みたいな題材はなんなのかを考えています。どういうテーマだったら2人が同じ情熱を持って作品に取り組めるのか。それを見つけたいと思うんですね。佐野さんの情熱は何に向いているのだろうということを私はすごく知りたかった。だからいろんなことを質問してみるんですけど、このときはうなだれた“迷える柴犬”になっているので、なかなか真意が出てこないんですよ。

 そこである時、佐野さんの「プロデューサーとしての強みはなんですか?」とちらっと聞いてみたんです。東大出身でキャリアを積んで、あれだけいろんな人にすごいと言われているのだから、いろいろあるだろうと思ったんです。そのときの答えは「フットワークが軽いこと」でした。聞きたかったのはそういうことではなかったので、私は「ふーん」と軽い返事をしたんです。でもどうやらそれが佐野さんに刺さってしまったようで、突然声を上げて泣き出されて。

――いきなりドラマチックな展開に……。

佐野 自分としては前向きな回答で、フットワークの軽さは自慢だと思っていたのですが……私が答えるべきはそういうことではなかったんですよね。その後あやさんは続けて、「ではそもそもなぜドラマプロデューサーになったんですか」と質問してきました。深い問いの始まりです。なぜドラマプロデューサーになったかを紐解くには、私自身をさらに掘り下げる必要がありますから。「なんでテレビ局に入ったか」「どうして東大に入ったのか」「どうして高校に……」と自分自身の過去をさかのぼっていったんです。

 すると、自分の中にずっと存在していたけど誰にも話してこなかったことがいろいろと見つかりました。つらい記憶も多かったですが、自分でも言語化できていなかったことをあやさんには全部話せてしまった。過不足ない的確な問いを前に、自分の内に見つけた言葉を紡いでいったら、いつのまにか号泣していたんです。本当にすべてをさらけ出してしまったんですよね。おかげでこの日はスッキリして帰りました。

渡辺 おそらくこのとき、佐野さんの中に何かしら変化があったのだと思います。自分の中にあった問題意識のようなものがやっと出てきたのでしょうね。顔つきや言葉の使い方がどんどん変わっていきましたから。

佐野 思えばあやさんには出会ってからずっと「あなたは何者か」を問われ続けていたんですよね。自分の内なる声に耳を傾け、心からやりたいと思う仕事をすべきだということを教えてもらいました。

2022.10.24(月)
文=綿貫大介