「観察する側」と「観察される側」の8カ月間が1冊の作品集に

 実力派俳優・綾野 剛が、稀代の写真家・操上和美と組む。しかもスタジオ撮影における「ポートレート」形式で、毎月1回、8カ月に及ぶ撮影期間を設けて――。ふたつの才能が相克する中で生み出された作品集『Portrait』は、写真点数545、総ページ数560に及ぶ大ボリュームの内容となった。完全受注生産の本作は、現在予約受付中だ。

 CREA WEBでは、綾野と操上の対談を取材。密やかに行われた二人だけの“決闘”を振り返るなかで、お互いのクリエーションに対する想いがあふれ出す。

――綾野さんと操上さんは、これまで様々な媒体でコラボレーションされています。

綾野 最初が「GQ」(2021年3月号)、その次が「GOETHE」の「男を起動させる眼鏡」でした(2021年6月号)。「SWITCH」(2021年9月号)でご一緒した時は、もう『Portrait』の撮影に入っていました。

――操上さんは、綾野さんと初対面を果たされた際の印象はいかがでしたか?

操上 怖い人でした。それは、生ぬるくない・隙がないという意味です。だからいつ撮ってもいい。被写体の存在として、最も良い状態でした。

 役者さんといえど、撮っていると「これ以上はしょうがないか」と思ってしまう人もいるんです。そうなるとそこで撮影をやめるしかないのですが、綾野さんは撮っても撮っても味が出てくる。素晴らしいことだと思います。

 僕は普段、撮る相手のことを多少調べたり本を読んだりして情報を入れてから撮影に臨みます。そうしないと、言葉のかけ方がわからない。撮影中は喋りっぱなしというわけではないし、一言二言しか発さないなかでどれだけ相手に響く言葉を投げかけられるかで、変化に差が生まれますから。ただ、綾野さんの場合は別でしたね。

 『Portrait』の場合は撮影する場所もポジションも決まっていますから、綾野さんは毎度スタジオに入ってきたらそのまま物も言わずカメラの前に立つんです。マスクをしたままでね。そこから何枚か撮ったあとでマスクを外し、ハグをするといったような形でした。「入ってきた瞬間撮影が始まる」という、ある意味緊張感のある場でしたね。

綾野 初回の撮影のときに、今回ヘアメイクをやってくれた石邑さんが気を遣ってくださってパックを持ってきてくれたんです。久々にやってみようかと思いパックをしながら、その姿を鏡で見ているときに「操上さん、これ撮りますか?」と聞いたら「撮ろう」と。パーテーションを隔てて撮影場所の隣で準備しているような距離感でしたし、何がポートレートになるかわからない。だから撮ろう、という感じで進んでいきました。

 その後は、自然と来たままの状態で撮る→最低限直してまた撮るというスタイルができていったように思います。

操上 元々が「ポートレートを撮ろう」というシンプルなところからスタートしていますし、お互いにスタイリングやショットがどうといった「こういう風に撮ろう」という話し合いはありませんでした。一回ロングショットを撮ったら、あとは全部その日、その瞬間の表情を撮り続ける。

 綾野さんは役者ですから、昨日撮った映画やドラマであったり、前夜の過ごし方によって今朝の顔が違う。その表情を撮りたいと思っていました。ひげがないときもあれば、少し太られたときもありましたね。あまり長い時間撮る必要もないので、始まったら1・2時間くらいでした。大体、お互いにふっと「ここまでかな」という瞬間が訪れるんです。

2022.10.15(土)
文=SYO
撮影=山元茂樹
スタイリスト=申谷弘美〈綾野剛〉
ヘアメイク=石邑麻由〈綾野剛〉