縄文遺跡にサンゴの北限、小さな島に見どころ満載

 ビーチロックに出る手前で左に折れると、断崖を掘削した迷路のようなトンネルが。幅は人がすれ違うのがやっとくらいでしょうか。トンネルは小部屋につながっていたり、海へ抜けたり。小部屋のひとつは、窓のように穴がうがたれています。

 東京湾の入り口近くの沖ノ島は、昭和初期の戦時下では敵軍の侵入を見張る重要な位置。このトンネルで身をひそめていた兵隊さんを思うと、暗がりの向こうで光り躍るブルーの海も、感慨深く映ります。

 島の北側の水面下は黒潮の恩恵を受け、太平洋側の北限とされるサンゴの群落が広がります。ソラスズメダイやツノダシ、カゴカキダイや、時に南方の魚種を見かけることもあるそうです。

 後になって知ったのですが、島の北側にはいつもは海中に眠り、干潮時のみ砂浜に現れる遺跡があるとか。その「沖ノ島遺跡」からは縄文時代早期の土器や、黒曜石の石器などが発掘されています。

 また、イルカの骨の化石も多く出土していて、沖ノ島はどうやら縄文時代、イルカ漁の基地だったようです。たまにビーチコーミングでも、イルカの耳骨の化石が見つかることも。布袋様が米俵に座っているような形から、“布袋石”とも呼ばれ、江戸時代から幸運のお守りとされていたそう。

 ご利益といえば、島内には地域発展のために1096年に建立された宇賀明神も。“宇賀”には蛇を表す“ナガ”の意味もあり、春先にイワシの群れで真っ赤に染まる海と、白い蛇が出会うことから、幸せを呼ぶと信じられているとか。

 磯遊びに、縄文遺跡、サンゴの北限の海に、縁結びスポット……。これだけ多様な見どころが、周囲1キロの小さな島に詰め込まれているとは!

 沖ノ島がある館山湾は、別名“鏡ヶ浦”と呼ばれるほど、穏やか。風光明媚な景観から「日本百景」に選ばれています。

2022.09.24(土)
文・撮影=古関千恵子