関口 お母さんの喜美枝さんがひばりさんのことを「お嬢」と呼んでいたので、私たちも「お嬢さん」と呼んでいました。

加藤 3人とも後援会に入ったことが、ウチに来るきっかけでしたね。

関口 私とちーちゃんは、楽屋の雑用をお手伝いしているうち、お母さんから声をかけていただいた。

 

「金だらい持ってきて」は「カナダドライだよ」

加藤 お袋に会ったときの第一印象はどうだった?

関口 いやぁもう、怖かった。だって大スターだから。でもお話をしてみたら、優しくてね。

加藤 お袋はいつも、「おのりはケセラセラだ」と言ってたね。

関口 ああ、何を言われても「大丈夫ですよ」と答えていたら、「大丈夫のおのり」と呼ばれるようになったの。そのうち「ケセラセラ」に変わったんです。

加藤 お袋にとって、そのくらいが楽だったんでしょう。いてもらわなくちゃ困る存在だったのは、間違いない。

関口 でもまあ失敗ばかりでしたよ。「おのり、あれはどういう歌だっけ?」と訊かれて「それはですね」と歌ったら、「余計にわからなくなったわ」って言われて(笑)。それ以来、テープにお嬢さんの歌を録音して、巡業に持って行くようにした。何かあればさっと出せるように。

辻村 歌わなくて済むように編み出した方法だね。

関口 あと、よく聞き間違えもしていた。お客さんが見えたとき、お嬢さんから「金だらい持ってきてちょーだい」って言われたから「誰か気持ち悪くなったのかしら」と思って、急いで探して持って行ったの。そうしたらみなさんキョトンとしたお顔で、お嬢さんが「カナダドライだよ」って。

加藤 「ジンジャーエール」と言ってくれればよかったんだ(笑)。

関口 ほんとに大失敗……。

加藤 お袋が気分よくステージに上がり、いい仕事をする上で、身の回りの細かいことを、かゆい所へ手が届くようにやってくれる人の存在は大事だったと思うよ。現場に随行していたのんちゃんとちーちゃんは、僕から見てもいいコンビでした。

2022.08.22(月)
文=加藤 和也,関口 範子,辻村 あさ子