本作のスタイルは細長い人体、線描、強いハイライトなど最後期のビザンティン美術の特徴を示しています。図像の表し方もそうで、例えば(3)の部分。3人の天使が食卓を囲む「アブラハムの饗宴」という旧約聖書の場面で「聖三位一体」を表すのはビザンティン的(東方的)です。一方、右下の(4)部分、半裸に数本の矢が刺さった姿の聖セバスティアヌスは西側の殉教聖人で、ビザンティンのイコンにはふつう描かれません。本作は西側の、ヴェネツィアのカソリック教徒の依頼で描かれた可能性も考えられます。

 ビザンティン美術史家・益田朋幸氏は、真ん中の(1)~(3)の場面の組み合わせは、クレタの聖堂建築内部の装飾プログラムから影響を受けたのではないかと指摘しています。この絵の中にクレタの聖堂の内部がぎゅっと詰まっているのかもしれません。

INFORMATION

「国立西洋美術館常設展」
https://www.nmwa.go.jp/jp/index.html

●展覧会の開催予定等は変更になる場合があります。お出掛け前にHPなどでご確認ください。

2022.07.13(水)
文=秋田麻早子