負の部分から目を背けず、前を向く。

――ドンスのキャラクターに、ドンウォンさん自身を反映させている部分はありますか?

 どんな役を演じる場合にも言えるのは、自分の中の何かを最大化して演じるのか、自然にあるがまま演じるのか、もしくは自分に無いものを作り出すのか、という選択肢があるということです。

 今回、ドンスというキャラクターには、僕自身の中にある部分と、撮影準備段階で児童養護施設へ行ったり、いろんな人に会って話を聞いたり、取材をして、そこから作り上げた部分もあります。

 自分の中から引き出した部分ということで言えば、僕は辛いことや悲しいことがあっても、絶対そこから目を背けずに直視して生きてきたつもりです。ドンスには僕のそういう部分を溶け込ませて、(親に捨てられたという)辛い経験を昇華させ、負けることなく生きている、という前向きな人物として演じました。

 今年3月、カン・ドンウォンはハリウッドの大手エージェンシー、CAAと契約した。カンヌでも脚光を浴び、5月末にはルイ・ヴィトンのアンバサダーにも抜擢。コロナ禍の前からロサンゼルスに家を構え、海外進出に備えていた彼にとって、ようやく長いトンネルを抜けたところだろう。

――辛いことといえば、コロナ禍というものがあります。ドンウォンさん自身、アメリカで映画に出演する企画があったのが進まなかったり、色々大変なことがあったと思うのですが、コロナ禍を通して得たものというものは何かありますか?

 もちろん、得たものはあります。辛い時期というか、長く続いたコロナ禍の間も、僕はその瞬間、瞬間を一生懸命生きていました。どんなに大変なときでも、そこから得るものがあると思っていますし、この期間があったおかげで、今は英語でコミュニケーションをしたり、ミーティングをすることに全く問題がないようになりました。それも、僕がこの時間に得たものの一つですね。

――2年前にお話を聞いたときは、ハリウッドで『TSUNAMI LA』という作品を準備中で、すでに15カ月間、ロサンゼルスに住んでいると話されていました。また、アメリカに戻られるんでしょうか?

 今もずっとアメリカと韓国を行ったり、来たりしています。今、アメリカで取り組んでいるのは『TSUNAMI LA』とはまた違うものですが、グローバルなプロジェクトが進んでいます。

 もちろん韓国映画でも頑張っていますよ。実は今、プロデューサーとして取り組んでいる作品がいくつかあるんです。自分でシノプシス(設定やテーマ、ストーリーなどを書いた、脚本の前段階のあらすじ)を書いた企画も2本あります。ちょっと必要に迫られて書いたんですけど、2本ともファンタジー映画です。他にも色々なジャンルの企画に取り組んでいるところです。

――プロデュースだけで、監督はされないんですか?

 それはちょっと僕には無理じゃないかな?

――イ・ジョンジェさん(コロナ禍の中、Netflix配信の2021年のドラマ「イカゲーム」で世界的に人気を博した)はカンヌで初監督作(『HUNT』)をお披露目していましたよ。

 実はイ・ジョンジェさんからどういうわけか、「お前はきっといつかやるよ、監督を」って言われはしました。先輩に予言されてしまったんです(笑)。先のことはわかりません。でも、これから本当に面白いことに色々挑戦していきたいと思っています。

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カン・ドンウォン

1981年韓国・釜山生まれ。2000年、名門・漢陽大学校機械工学科在学中にスカウトされ、モデルデビュー。パリコレ出演経験も。03年、ドラマ「威風堂々な彼女」で俳優デビューすると瞬く間に人気を集め、翌04年には『オオカミの誘惑』『彼女を信じないでください』という2本の映画に主演。以来、主演作が毎年のように公開される韓国映画界を代表するスター。代表作に『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)、『マスター』(16)、『義兄弟 SECRET REUNION』(10)など。

映画『ベイビー・ブローカー』

借金に追われるクリーニング店主サンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)〉がある教会で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。彼らの裏稼業はベイビー・ブローカーだ。ある晩、若い女ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊を2人はこっそり連れ去るが、彼女は翌日思い直して戻ってくる。2人はソヨンを説得し、より良い買い手=養父母を探す旅に出る。そこに彼らを追う刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)が加わり……。

TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督・脚本・編集:是枝裕和
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https://gaga.ne.jp/babybroker/

2022.07.02(土)
文=石津文子
写真=榎本麻美