そして安子を演じる上白石萌音もまた、この序盤の物語を描くために入念に選ばれたヒロインだったのだろう。それは戦中から戦後の激動に歯を食いしばって自立を試みながら、ついに力尽きる無念の日本女性像だ。

 

ズバ抜けた「受けの芝居」…上白石萌音のスゴさ

 上白石萌音は「強さと弱さ」を演じ分ける演技の抑揚に優れた若手俳優だ。そのキャリアの初期、上白石萌音は強気に輝くメインヒロインの周囲で対照的なバイプレイヤーを演じることが多かった。

『溺れるナイフ』では小松菜奈が演じる田舎町で輝きを放つヒロインの友人として、引っ込み思案ながら思い人は譲らない情念を抱えた少女を演じた。『ちはやふる』では広瀬すず演じる綾瀬千早の躍動に翻弄されながら、その才能と観客の橋渡しをする物語の「語り部」のようなキャラクター、大江奏を好演し、物語を牽引している。

 この翻弄されるリアクション、受けの芝居が上白石萌音は若手の中でズバ抜けて上手いのである。今作『カムカムエヴリバディ』の中でも、周囲の理不尽に泳ぐ視線、揺らぐ声でその心理の動揺を見事に演じている。

 朝ドラの王道である強く前向きなヒロインは確かに、視聴者をサクセスストーリーの軌道に乗せて夢を与えるのには適している。だがその「強さ」は時に、当時の時代的困難を「弱く」見せてしまうというジレンマを抱えている。戦中戦後と言えど、男女雇用機会均等法もフェミニズムもなくとも、強い心と明るい笑顔があれば女性も人生を切り拓けたのだ、という誤解を、脚本家の意図とは別に生みがちなのだ。

 早くも評価が割れ議論を呼ぶ序盤の展開とは別に、上白石萌音の演技の評価がおしなべて高いのは、戦中戦後の女性の弱い立場を見事に表現できているからだ。それは単に従順なのではなく、内面に燃えるような意志を秘めながら、それを表出する言葉を与えられず表現ができない、社会と内面が矛盾するもどかしさを見事に表現する繊細な演技だ。

2021.12.25(土)
文=CDB