●ピアノや京都弁にも挑戦した初主演映画

――さて、天性の音楽の才能を持つ朔を演じた『ミュジコフィリア』は、映画初主演作となりました。

 番手に対するこだわりはまったくないんですが、ひとつの形として、主演というものを任せてくださったことが嬉しかったです。その期待に応えなければいけないというプレッシャーもありましたが、これまでやってきたものをぶつけられる嬉しさの方が大きかったです。朔を演じるにあたっては、純粋に音楽が好きなだけなので、天才というワードを優先するというよりも、等身大の自分に近いものを演じるというか、生活からにじみ出てくるものから演じました。そのため、ちょっと気恥ずかしさもありました(笑)。

――ピアノや京都弁に関しては、いかがでしたか?

 ピアノに関しては、小さい頃にやっていたこともあり、楽譜が読めて、そこそこ弾ける程度でしたが、『トウキョウソナタ』や「ひよっこ」に続いて、役で弾くことができて、どこかで縁みたいなものを感じました。また、ピアノも体作りに近いところがあって、楽曲が弾けるようになっていくと、朔に近づいているような感じがして、とても助かりました。

 方言に関しては、『ザ・ファブル』では関西弁を話す役だったので、今回の京都弁も大丈夫かなと。でも、音としてはできていても、なかなか自分の言葉にならなくて、そこをどうマッチさせるのがハードルでもありました。最終的には気持ちを優先しつつ、音が付いていくようにしていきました。

――本作では、どんな新しい井之脇さんが観られると思いますか?

 単純に、これまで僕が演じてきた役の中で、長く深く役を観てもらえると思うんです。そんななか、ふとしたときの表情に関しては、朔でありながらも、僕の新しい表情であるような気もします。それがたくさんスクリーンに切り取られた作品になったと思います。具体的に、僕が試写で観て、いいなと思ったのは、河原でピアノを弾いているときのシーンと、異母兄である大成とケンカして朝帰りするときの表情ですね。

●これからも、真摯に現場に飛び込みたい

――30歳に向けて、今後の展望や目標を教えてください。

 やっぱり役を演じるということは、実際に経験したことだったり、得た知識などからにじみ出るものだと思うんです。なので、これから先も井之脇 海として、真摯に現場に飛び込みたいと思いますし、いろんなものを吸収して、成長していきたいと思います。それで、いろんなキャラクターにチャレンジすることで、次に演じる役に還元できたら最高ですね。みなさんには、いろんな姿を見てもらいたいです。

――ちなみに、どのような先輩に憧れていますか?

 たくさんいらっしゃいますが、一緒に舞台「CITY」(19年)をやらせてもらった柳楽優弥さんはスゴかったです。日々の稽古から違って、舞台の上でもそのときに感じたことを表現されていて、役を完全にご自身のものにしているんです。僕は柳楽さんのようなタイプではありませんが、ずっと憧れています。

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井之脇 海(いのわき・かい)

1995年11月24日生まれ。神奈川県出身。07年、『夕凪の街 桜の国』で映画デビューし、翌08年の『トウキョウソナタ』で「キネマ旬報ベスト・テン」新人男優賞ほかを受賞。21年は主演作『ミュジコフィリア』のほか、『砕け散るところを見せてあげる』『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』『Arc アーク』『護られなかった者たちへ』『ONODA 一万夜を超えて』などが公開。

『ミュジコフィリア』

京都の芸術大学に入学し、ひょんなことから現代音楽研究会にひき込まれる漆原朔(井之脇海)。だが、そこには朔が音楽を遠ざけるきっかけとなった異母兄の貴志野大成(山崎育三郎)がいた。そんななか、朔と同じように自然の音を理解する浪花凪(松本穂香)が彼の前に現れ、朔の秘めた才能を開花させていく。
©2021 musicophilia film partners ©さそうあきら/双葉社

https://musicophilia-film.com/
2021年11月12日(金)より、京都にて先行公開。11月19日(金)より、全国公開。

Column

厳選「いい男」大図鑑

 映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。

2021.11.12(金)
文=くれい響
写真=平松市聖
スタイリング=清水奈緒美
ヘアメイク=AMANO