水も樹木も豊かな東北で暮らし、物作りに携わる作り手たち。広大な土地ゆえ、住まいも人との関係も程よく距離をはかりやすいのだろうか。

 各々の縁でその地に根をおろし、朗らかに黙々と暮らしの道具を作る彼らの作品を生み出す姿と個性が光る作品を通じて、東北の魅力を感受したい。注目の作家7人をご紹介。


憧れの東北の樹木に“箔”で瞬間の自分を刻む

◆浦上陽介(うらかみ・ようすけ)
[宮城・木工家]

 箔が鈍く光る、大胆かつ緻密で美しい大小様々な蓋付きの箱や角皿。拭き漆の地に滲んだ墨で描かれた格子柄の小皿。

 作者は浦上陽介さん。蔵王のこけし工房の、ほんの一角が彼の仕事場だ。

 浦上さんが生まれたのは長崎県の五島列島。「島から出たい」一心で東京のデザイン学校に通い始めたとき、ある喫茶店の家具に心惹かれ、その家具職人を訪ねる。学校に通いながら手伝いをさせてもらうことになり、約10年勤め、30歳を越したときに独立した。

 五島列島の樹木は椿などの照葉樹林。四季がはっきりしている、東北に対する憧れがあった。妻の実家が東北ということもあり、辿り着いたのがこの地だった。

 地元の人とは持ちつ持たれつ。近所の職人からは工房の一角や、彼らが使わない材木、そして道具を借りることもある。一方、浦上さんが一人暮らしの老人を見舞うことも。そして、この地で栃や楓や楢などの落葉樹を使うようになった。

 刃物と漆の扱いは家具の修業時代に習得していたが、 「技術は継承すれば、獲得できるが、それじゃ面白くない」。

 彼の目指すのは技術の上達でも作業効率でもなく、自分らしさ。そのためにずっと使い続けているのが“箔”。自分らしい“隙”を表現するために、重ね、焼き、ひっかき、グラデーションをつける。

 「飽きっぽいから、展覧会ごとに作品が違う」と冗談めかして言うが、そのキラキラとした目は、次に作る物が楽しみで仕方ないという感じだ。

浦上さんの作品は展示会でのみ購入可能

詳細はホームページで告知します。
https://yosukeurakami.com/

●「浦上陽介・田村文宏展」(2021年11月20日[土]~28日[日]/神奈川「rs つじどうや」)
http://rs-tsujidoya.com/

●観慶丸本店
http://kankeimaru.com/

浦上陽介(うらかみ・ようすけ)

1985年 長崎県五島列島生まれ。桑沢デザイン研究所卒。在学中から家具工房で約10年間修業ののち、2016年に独立。同年、宮城県の蔵王に移住して工房を構える。

Feature

様々な個性が光る作品を生む
東北の煌めく作り手たち

Text=Akiko Hino
Photographs=Wataru Sato