「CREA Traveller」2021年秋号の特集は、「デザインで巡る東北」。
東北地方の、独特の様式美。古くから伝わるモノやコトに、新しい風を取り入れながら変化し続ける東北の今を、手仕事からアートスポット、美味しいお店まで、デザインを楽しみながら、旅してみませんか。
この記事の掲載号
水も樹木も豊かな東北で暮らし、物作りに携わる作り手たち。広大な土地ゆえ、住まいも人との関係も程よく距離をはかりやすいのだろうか。
各々の縁でその地に根をおろし、朗らかに黙々と暮らしの道具を作る彼らの作品を生み出す姿と個性が光る作品を通じて、東北の魅力を感受したい。注目の作家7人をご紹介。
不器用を肯定して独自の世界を追い求める
◆佐々木奈美(ささき・なみ)
[岩手・鉄瓶職人]
佐々木奈美さんは、山形の東北芸術工科大学を卒業後、岩手の美術館に勤務。
だが、物作りの世界に入りたい、と28歳のときに南部鉄器の産地である奥州市の後継者育成事業に応募する。
女性なのに、という言葉。今の世の中では御法度だろうが、水の7、8倍の比重の鉄を扱う作業を生業とすることに躊躇はなかったのだろうか。
「親には止められましたが、師匠も良い方だったし、鉄瓶職人を続けていきたい」と即答。一生の仕事としての心意気が頼もしい。
危険とも隣り合わせなうえに、鉄瓶の工程は80段階あるともいわれ、作業を一通り覚えるだけでも大変だ。醍醐味は、湯(溶けた鉄)を流すところのように思えるが、淡々とした作業も多い。
「着色で使う、藁の芯である“みご”を使った小箒を作る作業や、鉄瓶を熱しながら漆を焼き付けていく着色も楽しいです」と、職人ならではの好きな工程を教えてくれた。自らのデザインを作り上げるために、どの作業も疎かにできない。
佐々木さんの鉄瓶は、すでに独自のスタイルを確立している。美しい模様、優雅なフォルムは薄造りに仕上げられている。
スマートに仕上げる佐々木さんだが、自分らしさを問うと「不器用なところ。考えるのにも作るのにも時間がかかるが、それもいいのかもしれない」と言う。
不器用な職人があえて選んだ繊細な柄。慎重さが、美しい仕上がりに繋がるこの鉄瓶に、あえて「女性ならでは」という言葉を、褒め言葉として使いたい。
佐々木さんの作品が購入できるお店
●盛岡「カワトクキューブII内 かわとく壱番館」
電話番号 019-651-1111
佐々木奈美(ささき・なみ)
1984年岩手県奥州市生まれ。大学卒業後、美術館勤務を経て、2013年から水沢鋳物工業協同組合の後継者育成事業にて研修。及喜鋳造勤務。2019年屋号「奈の花」として水沢で独立。
Feature
様々な個性が光る作品を生む
東北の煌めく作り手たち
Text=Akiko Hino
Photographs=Wataru Sato