水も樹木も豊かな東北で暮らし、物作りに携わる作り手たち。広大な土地ゆえ、住まいも人との関係も程よく距離をはかりやすいのだろうか。
各々の縁でその地に根をおろし、朗らかに黙々と暮らしの道具を作る彼らの作品を生み出す姿と個性が光る作品を通じて、東北の魅力を感受したい。注目の作家7人をご紹介。
ナチュラルな羊毛の語る声に耳を傾けて
◆ササキトモミ(ささき・ともみ)
[岩手・ホームスパン作家]
ホームスパンとはHOME(家で) SPUN(紡いだ)。家で羊の原毛から手紡ぎをし、手織りによって仕上げる手織物のこと。英国から伝わり、同じような気候のほかの地方には根付かず、産業として受け継がれているのは岩手だけだ。
ササキトモミさんは小学生のころに織り機を使う機会を得て、いつか織を仕事にしたいと思ったそうだ。願いを成就させるべく工場に入り織手として6年半、羊毛のほかシルクやリネンも織っていた。
その後、観光農場で飼育される羊と過ごし、羊の毛を使った手紡ぎやホームスパン体験の講師をすることで、羊毛の魅力に開眼した。
もっと羊毛のことを知りたい、と専門の輸入業者に勤めたのち、 作家として独立。それ以降、生活の中心は羊毛だ。
ササキさんの紡ぐ糸は細めだが、「どう紡ぐかは、羊毛と向き合って決めます」と言う。あくまでも毛が主体。染色した羊毛で制作するのが一般的だが、染めずに原毛の色を生かす。
「もっと糸を太くしてざっくり織れば、早く仕上がり値段も安く付けられるのでは?」と、意地悪な質問をしたが、彼女に語りかける羊の毛はそれを許さない。
「私の織る質感は説明しないとなかなか伝わらない」と本人は言うが、羊毛と語り合いながら丁寧に紡ぎ、その毛に合った織り方で仕上げていることは、作品に自ずと表れている。これからも羊の毛の伝道師として、気品のあるホームスパン作品を生み出していくことだろう。
ササキさんの作品は「ひめくり」「Jikonka TOKYO」などで購入可能
●岩手「ひめくり」
http://himekuri-morioka.com/
●東京「jokogumo」
https://www.jokogumo.jp/
●「Meets the Homespun 2021」(2021年10月30日[土]~31日[日])/岩手「岩手銀行赤レンガ館」
https://tekuri.net/homespun2021/
ササキトモミ(ささき・ともみ)
1974年岩手県滝沢市生まれ。2004年山梨県で「ORIGIN」として活動スタート。2016年岩手県に拠点を移し、染色していない毛織物を意味する「beige」として活躍中。
Feature
様々な個性が光る作品を生む
東北の煌めく作り手たち
Text=Akiko Hino
Photographs=Wataru Sato