水も樹木も豊かな東北で暮らし、物作りに携わる作り手たち。広大な土地ゆえ、住まいも人との関係も程よく距離をはかりやすいのだろうか。
各々の縁でその地に根をおろし、朗らかに黙々と暮らしの道具を作る彼らの作品を生み出す姿と個性が光る作品を通じて、東北の魅力を感受したい。注目の作家7人をご紹介。
二人の手から生まれる愛嬌・愛情に溢れた物たち
◆鈴木康人(すずき・やすと)/智子(ともこ)
[福島・鍛冶職人/布作家]

人の看板を掲げる。さらに野鍛冶に弟子入りし鍛造の技術も習得。そして、仕事で使う裁ち鋏の研ぎを頼みに来た智子さんと出会った。
2009年にomotoの屋号で二人の活動が始まる。一つひとつ形や柄が違い、個性的な包丁は展示会で出合う以外は数年待ち、という人気ぶりで、ラフに作られているように見えるがキレ味は一流だ。

それを守るのは智子さんが染めたり、集めた生地を縫い重ねたりして作った布ケース。彼女の縫い合わせも独特の世界観だ。どちらも使い捨てではなく、手入れをしながら長く愛用していける道具でありたいという思いが込められている。

数年前に、康人さんの腕と人柄を見込んだ漆の保存会から、漆を掻く特殊なカンナの技術継承の話が舞い込んだ。承諾して技術を習得したのも、古くから続く文化を絶やさないことに繋がっている。
智子さんは、月一回、満月の日に小さな休憩所のような店「生活直売店」を開いている。彼女が選んだ体にいい物と、勧めたい生活道具、そして素敵な仲間が集まる店だ。

「智子さんの店だから」と康人さんは満月の日は裏に隠れているが、呼ばれれば助けに来てくれる。どこまでも包丁とケースのような二人なのだ。
生活直売店
所在地 福島県いわき市平谷川瀬1-19-6
Instagram @omotonoseikatsu
※12:00~20:00、満月の日のみ営業。
※omotoの作品は展示会でのみ購入可能、http://www.nunototetsu.com/で告知。
鈴木康人(すずき・やすと)/智子(ともこ)
ともに福島県いわき市生まれ。康人:石津謙介氏に師事。その後、野鍛冶・長谷川昭三氏に師事。智子:縫製会社勤務を経て、パタンナーに。omotoは2009年から。

Feature
様々な個性が光る作品を生む
東北の煌めく作り手たち
Text=Akiko Hino
Photographs=Wataru Sato