お芝居が簡単だったら、きっと楽しいとは思わない

――第一線で活躍する脚本家や監督、プロデューサーが審査員として参加しましたが、特に印象的だった人はいますか。

 何度も審査員として来てくださっていた根本宗子さんからいただける言葉はすごくうれしかったです。5回目のバトルで負けたとき、脚本を書いてくださったのが根本さんでした。脚本を書いてくださった方に票を入れていただけたらいちばんうれしいと思っていたので、あのときは負けたことよりも、根本さんに票を入れていただけなかったことが悔しかったです。

 その分、根本さんから褒めてもらえたときはすごくうれしくて。

――飯沼さんが初めて負けてしまった第5回の演技バトルですが、実は他の候補者の演技バトルに相手役としても参加しています。そのときの演技を根本さんは「すごく良かった」と評価していましたよね。

 そうなんです。だから、あのときはすごくうれしくて。私は相手役ということで緊張していて。とにかく審査を受ける側の人たちに迷惑をかけないように、台詞が飛ばないようにということで頭がいっぱいで、実はほとんど何も覚えていないんですけど。

 (同じく審査員を務めていた)バカリズムさんからも「こっちの方が良かった」と言っていただいて。自分では何が良かったのかはよくわからないけど、ありがたい言葉だなと思いました。

――審査員の方からいろんなコメントをもらったと思いますが、何か心に残っているものはありますか。

 よく「台詞がないときの表情がいい」と言っていただけることが多くて。それはうれしかったですし、自信にもなりました。

――台詞がない演技といえば、第9回演技バトルで、離れて暮らす父親のもとを訪ねた娘が座ったままモゾモゾと移動するところが自然で良かったです。あのリアリズムはなかなか出せるものではなかったなと。

 事前のリハーサルで練習を見てくれたディレクターさんが「(対戦相手だった)出口(真帆)さんとお父さんの感じがすごく良かった」という話をしていて、それが悔しくて。リハーサルから本番が始まるまでの間に演技プランをもう1回考え直したんです。それで、この狭い部屋の中でどうやってお父さんと距離をとろうと考えたときに、あの動きを思いついて。

 あの回も自分では反省することが多かったんですけど、周りの方からは「すごく良かった」と言ってもらえることが多くて。お芝居って何が良くて何がダメなのかわからなくて難しいなって改めて思ったりもしました。

――でもだからこそ、楽しいと思う部分も。

 そうですね。簡単だったら、きっと楽しめないんじゃないかなと思うんです。やってもやってもわからない。何が正解かもわからない。そういう難しさも含めて、お芝居は楽しいなって思います。

» 後編へ続く

飯沼 愛(いいぬま・あい)

2003年生まれ、香川県出身。2020年12月から2021年1月にかけて募集が行われたTBSスター育成プロジェクト「私が女優になる日_」のオーディションに応募し、全国9000人の中からプロジェクトメンバーの10人に選出。4月から9月までオンエアされた、プロジェクト同名番組内での演技バトルを勝ち抜き、10月スタートのよるおびドラマ「この初恋はフィクションです」(TBS系)主演の座を獲得。特技はバスケットボール、趣味は読書とギター。

よるおびドラマ
「この初恋はフィクションです」(TBS系)

倉科泉(飯沼愛)は、成績は学年1位だが恋愛には奥手な高校2年生。クラスに「とんでもないイケメンが転校してくる」と噂が立つが、転校生は初日から欠席、その後いつまでも登校してこない。「アイドルなのか?」など噂が広がる中、学級委員の泉は彼の家に宿題を届けることに。本人に代わって応対した母親から彼のLINEを渡され、泉は顔も姿もわからない転校生と連絡をとるように……。
企画・原案は秋元康、脚本は「おっさんずラブ」「私の家政夫ナギサさん」などで知られる徳尾浩司。坂東龍汰、窪塚愛流、飯塚悟志(東京03)、矢田亜希子、坂井真紀など多彩な共演陣のほか、ともに演技バトルを戦った武山瑠香(2位)、赤穂華(3位)、三浦涼菜と渋谷風花(ともに特別枠)も出演。転校生役を誰が演じるのかは明かされていない。

2021年10月11日(月)放送開始
TBS系 毎週月曜~木曜 深夜0:40~
https://www.tbs.co.jp/hatsukoi_f_tbs

TBSスター育成プロジェクト「私が女優になる日_」

約9000人の応募者から選ばれた10人が、岡田惠和、徳尾浩司、澤本嘉光、大宮エリー、根本宗子、漫画家・青木琴美、バカリズム、秋元康が手掛けた、さまざまなジャンルのオリジナル台本に挑む。ファイナリスト選出の瞬間から、課題に対し自ら演技プランを考え稽古を重ね、ライバルたちと切磋琢磨しながら演技バトルを重ねていく様子は、全話Paraviで視聴可能。
https://www.paravi.jp/title/69975

2021.10.11(月)
文=横川良明
撮影=松本輝一
スタイリスト=木下彩
ヘアメイク=Otama