おいしいチーズのお菓子ができるまで

 昭和18年に弓削さんの父親が始めた牧場。2代目を継いだ弓削さんですが、バブルの時期から周辺はどんどん住宅地として開発され、牛乳が生産調整されるようになり、牧場の存亡の危機に直面。生き残りをかけて、昭和59年、奥様の和子さんとふたりでチーズづくりを始められたのだそう。フレッシュチーズがまだ一般的ではない頃ですから、製造のノウハウもわからない。試行錯誤を繰り返して、やっと白カビのカマンベールチーズと、フレッシュなフロマージュ・フレ(生チーズ)ができました。

左:「チーズハウス ヤルゴイ」外観
右:「チーズハウス ヤルゴイ」店内

 そのおいしさを知ってもらうために、昭和62年にヤルゴイをスタート。チーズの食べ方の提案を始めます。カレーにフロマージュ・フレを付けたり、チーズを作る工程でできるホエー(乳清)のシチューを出したり。レア・チーズケーキなど、スイーツも次々に作るようになりました。「製造現場すぐの場所でレストランができるのは、酪農家の醍醐味(笑)。そのうち、牛を飼ってお菓子をつくりたいというパティシエが出てくると思いますよ。搾りたてのミルクはもちろん、つくりたての生クリームもバターも格段においしいですから」。

左:フロマージュ・シフォンケーキ 525円
右:クレーム・ダンジュ 472円

 ここのスイーツの中で、私の一番のお気に入りが「フロマージュ・シフォンケーキ」。たっぷりのフロマージュ・フレと水ではなくホエーを入れて焼き上げているのだとか。さらに「ホエーには甘味があるので、砂糖の量をうんと減らせるんです」と弓削さん。ソフトなのに信じられないくらい弾力があって、噛むとまろやかなチーズの風味が広がります。よく冷やして、生クリームでなくフロマージュ・フレをたっぷり付けていただくと、ほのかな酸味が加わって、とてもさわやか。

 フロマージュ・フレをたっぷり味わいたいなら「クレーム・ダンジュ」。フランスでは「天使のクリーム」とも呼ばれる人気のスイーツです。元々はアンジュ地方の郷土菓子で、酪農家がバターを作る撹拌器でクリームをこねる過程で誕生したとか。まさに、牧場で食べるのにぴったり。口の中に入れると、すうっと消えてしまうやさしい口溶け。後口がすっきりなのは、ミルクやチーズそのものの質が良いから。有名パティスリーで食べるよりも断然おいしいと思うのです。

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2013.06.23(日)