それまではお芝居の現場にいても、自分のことを役者だと思ったことはなかった

――じゃあ、どうしてやってみようと思ったんですか?

 実は、そのタイミングって、ちょうど「自分は役者としてどうあるべきか」みたいなことで悩んでいた時期でもあるんです。

 映画は、『ノルウェイの森』から『あのこは貴族』までいろんな作風のものに出演して、テレビドラマにも出演しましたし、その流れでバラエティに出たりとか。いわゆる芸能の仕事にもチャレンジしながら、ベースにはファッションの仕事があって。アートとか音楽とか、興味のあることを仕事に結びつけることもできました。

 そんな中、先日公開された映画『あのこは貴族』で、それまでとはまた違う、等身大の女性の役をいただいたとき、すごく肩の力を抜いて演じられたんです。お芝居って作り込むことが大事なのかなと思っていたけれど、『あのこは貴族』に関しては、割と自分らしくいられた現場でした。そうしたら、試写の後なんかに、思いもかけないいい評価をいただけたんです。

――『あのこは貴族』の美紀は、すごくリアルで、ちゃんと人間臭くて、チャーミングでした。こと映画に関しては、それまで希子さんが演じてきた役って、どこかスーパースペシャルな要素があったから。

 そうかも(笑)。やっぱり、モデルをしているときのイメージが強いんでしょうね。私自身も、それまではお芝居の現場にいても、自分のことを役者だと思ったことはなかったんです。いわゆる「役者さん」と呼ばれる人たちは、私にとってはずーっとお芝居されている人っていうイメージ。「今の〇〇の映画の撮影が終わったら、そのあとはドラマが入っていて、秋は舞台です」みたいな。

 「役を生きることが生き甲斐」「俳優が天職です」とか、断言できるような方達と、自分が肩を並べて役者を名乗るなんて畏れ多いと思っていた。でも、『あのこは貴族』の美紀を演じたことで、映画通と言われるような方にも、「もっともっと、今の若者を扱った映画に出てほしい」と言っていただけたりとか……。

 もちろん、役者というのはモデルやアーティストとしての活動の片手間にできるものじゃないけれど、私はもっと役者としての自分に真剣に向き合った方がいいんじゃないかと、思い始めたとき、ちょうどこのお話をいただいたんです。

2021.04.14(水)
文=菊地陽子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=小蔵昌子
ヘアメイク=白石りえ