香港に着いたら真っ先に食べたいものといえば、そう、本場の広東料理。

 伝統を守り続ける名店が軒を連ねる一方で、国際都市・香港らしく世界の今を捉えた広東料理からも目が離せない。

 モダンに進化した最新中華を召し上がれ。


大班樓
The Chairman

名物の花蟹の紹興酒蒸し。添えられた腸粉は、蟹のダシを余すところなく吸うように特注したもの。頰張ると口の中ですべての旨みが一気に弾ける。 時価。

「この一皿を味わうためだけに、日本から飛行機に乗る価値がある」

 香港グルメ界をリードするフーディーズがそう口を揃える逸品が、この店のシグネチャーメニューとして知られる花蟹の紹興酒蒸しだ。

インスタ映え全盛の今、盛り付けに時間をかける店も多いが、この店が大切にしているのは出来あがった瞬間の美味しさ。ラードで包み揚げにした蟹肉は、揚げたて熱々のサクサクした食感が楽しい。

 直前まで生きていた花蟹。まろやかな熟成香を放つ20年ものの紹興酒。脇役としてわずかに旨みを加える鶏油。この三つだけを素材とし、調味料を一切使わず、絶妙な火入れで一気に蒸し上げる。

 その味わいは、清らかというのがぴったりの美味しさである。

ダニー・イップさん。香港、オーストラリア、京都の3カ所に拠点を構えて世界を飛び回る。日本料理にも造詣が深い。新聞にペンネームで連載している食のコラムも注目されている。

 私たち日本人も親しみのある広東料理を、伝統をしっかりと踏まえたまま究極に洗練された高みへと導いたのが、オーナーシェフのダニー・イップさん。

 世界中を食べ歩いている、香港ではつとに知られた美食家だ。

お米一粒一粒に、自家製の調味料がしっかり絡む。

 実業家として成功を収めており、「この店はもともと、自分がほんとうに好きな料理で、大切な人たちをもてなすために趣味で始めた」と言うだけあって、極上の食材を使った料理が、リーズナブルな価格でメニューに並ぶ。

 もう、採算を度外視しているとしか思えない……。

Text=Shifumi Eto
Photo=Takashi Shimizu
Cooperation=Hong Kong Tourism Board

この記事の掲載号

香港・マカオ

CREA Traveller 2019年秋号

新しさと懐かしさと
香港・マカオ

定価1,350円 (税込)

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CREA Traveller 2019年秋号
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