バングラデシュから直送される
オーガニック・ティーの秘密
さて、ティトゥーリアが特別なのは、カクテルだけではありません。そもそも、ここで提供しているお茶はすべて、バングラデシュのテトゥリア(Tetulia)地区にある単一の茶園のもの。
オーガニックで栽培、手摘みされた茶葉を加熱処理して緑茶に、発酵させて紅茶に、半発酵させて烏龍茶に、とすべて自社栽培、自社加工したものが直送されているのです。
さらに、ジンジャー・ティーやレモングラス・ティーに使用されているショウガやハーブも、同茶園内で栽培しているものを使用しています。
「もともとは荒れ地だった土地を茶園にしたのです」と話すのはファウンダーのひとり、アッサン・アクバーさん。
長らく放置されていた一族が所有する土地を、アッサンさんの叔父のアイデアで茶園にするべく、まずはこの不毛地帯の土を牛糞で肥やすために、1995年に牛を飼うことから始めたといいます。
テトゥリアはインドとの国境のすぐ近く。お茶の生産地シッキムやアッサムが国境のすぐ向こう側で至近だったことが、アイデアの源でした。
実はこのエリア、土地も不毛でしたが、近隣住民たちの生活水準も低かったのだそう。
アッサンさんの叔父が運営するチャリティ・プロジェクトの一環として、牛を地元の女性たちに1頭ずつ貸し出し、えさ代のみ各自負担、牛の賃貸料は馬糞で支払う、というシステムを構築。
借り手の女性たちにとっては、牛乳を販売することで収入を得られるため、大いに生活の助けになっているのだそうです。
荒れ地だった土地に緑が戻ってきて、茶園としてスタートを切ったのは2000年のこと。茶園でも茶摘みの仕事で大活躍したのは地元の女性たちでした。
「茶摘みは圧倒的に女性の手のほうが適しているんです。私ががんばって1キロ摘む間に、彼女たちは15キロもの茶葉を摘んでいますから」とアッサンさん。
パッケージのロット番号から、誰がいつ摘んだかがはっきりと追跡できるシステムも確立しているといいます。
「私たちの農業は、実は日本で自然農法を提唱した福岡正信氏のメソッドを踏襲しているのです」とのことで、実際に茶園の農作業に深く携わったアッサンさんのいとこは、福岡氏と日本で面会を果たし、この事業の報告をしたのだそうです。
「グレートマスター(福岡氏)は、話を聞いて喜んでくださったそうですよ」
さらに興味深いのは、「昔は、圧倒的に男性が強く、女性は男性の言いなり、という力関係だったのが、牛飼いや茶摘みで女性たちが収入を得られるようになった。それでこの地域の男女の力関係も変わってきているのです」という点。
女性が自立する助けになっているお茶だと思うと、手の中のカップが非常に貴重なものに思えてきます。
自らも小説や詩を執筆するというアッサンさんの趣味を反映してか、店内には大きな本棚があり、自由に閲覧することが可能。
この本棚、近づいてみると、著名な作家やミュージシャン、役者、映画監督などが各自10冊ずつノミネートした本が並んでいることに気づきます。
これらのキュレーターたちは毎月変わる予定とか。人の本棚をのぞき見する、という楽しみもプラスされた、ユニークな紅茶バー。
コヴェント・ガーデンに行かれた際には、一休みスポットとしてもおすすめです。
Teatulia
所在地 36 Neal Street, London WC2H 9PS
営業時間 月~土曜 8:00~22:00、日曜 8:00~20:00
https://www.teatuliabar.com/
安田和代(KRess Europe)
日本で編集プロダクション勤務の後、1995年からロンドン在住のライター編集者。日本の雑誌やウェブサイトを中心に、編集・執筆・翻訳・コーディネートに携わる。
ロンドンでの小さなネタをつづったフェイスブック www.facebook.com/kresseuropelimited
運営する編集プロダクションのウェブサイト www.kress-europe.com/
文・撮影=安田和代(KRess Europe)