イタ

 風格を感じさせる質感とそこに施された独特の文様……。木板の上に作家たちの感性が横溢する二風谷イタは、一枚一枚異なる表情がえもいわれぬ魅力を醸し出す。


アイヌの美意識を
象徴する伝統工芸品

 イタとは、アイヌの暮らしのなかで欠かすことのできないお盆のこと。とりわけ精緻な文様を彫り込んだものは、神へ捧げる儀式の際にも用いられたといい、まさにアイヌのモノづくりを象徴する工芸のひとつだ。

 かつてアイヌの間では、木工は男の仕事だったという。刃物を巧みに使いこなし、狩猟のための弓や罠などの道具を作ることは男にとって必須の能力。つまり、木工の上手さは、狩りの上手さにも直結したのだ。

 各地で地域特有のイタが作られたなか、二風谷イタの特徴は、“モレウノカ(渦巻き)”“シクノカ(目)”などの文様が必ず取り入れられ、その間を埋めるようにウロコ彫りが施されているところ。一枚の木板いっぱいに表現される世界観は圧倒的で、これらの文様には、邪神や病気から身を守る魔除けの意味もあったとされる。

 江戸・安政年間には幕府にも献上されたという記録が残る二風谷イタ。その凜とした美しさは時代を超えてなお、決して失われることはない。

奥深きアイヌ木彫りの世界

 現在も熟練の作家たちが二風谷イタの伝統を守りながら、独自の作品を生み出している。

取材・構成・文=矢野詔次郎
撮影=小野祐次
地図製作=シーマップ