アットゥシ
アイヌ文化として豪快な伝統衣装を真っ先に思い浮かべる人も多いはず。その生地となるアットゥシは豊かな森の恵みと精魂込めた手仕事が生み出す奇跡のような逸品だ。
大自然とともに生き続ける
手仕事の珠玉

かつて北前船の船頭たちが仕事着として重宝し、今なお歌舞伎の世界では人気演目に欠かせない衣装として愛されているアットゥシ。
そんな豪快かつ絢爛な着物としてのイメージとは裏腹に、アットゥシ織りは極めて慎ましやかで、根気のいる作業の連続だ。二風谷では機織り機も100年以上の昔と変わることのない、持ち運べるほど簡素なものを使用する。

アットゥシ織りは、まず素材作りから始まる。ニレ科の落葉樹オヒョウなどの樹皮をはがし、釜で煮ては洗い、干し、さらに細く裂いて撚り、1本の糸が紡ぎ上がったところでようやく機織りに取り掛かれる。もちろんすべてが手作業だ。
そして1日に織り進められるのはわずか1メートルほど。こうして生まれる反物は、強靭で通気性に優れ、水にも強い。生成りの美しさもさることながら、二風谷の草花で染めた繊細な色彩も素晴らしい。
右:工房には自身で制作した“アットゥシアミプ(着物)”が。
精魂込めたものには良い魂が宿る。アットゥシは、そうしたアイヌ文化の珠玉なのだ。
母から娘へと
守り継がれる技
右:母の雪子さんからアットゥシ織りを学んだ関根真紀さん。女性としては珍しく、二風谷イタの制作も手がけている作家で、アイヌ伝統の技法と意匠をベースにしながら、新しいスタイルの作品作りにも挑戦している。
【取材協力】
北海道観光振興機構

取材・構成・文=矢野詔次郎
撮影=小野祐次
地図製作=シーマップ