近鉄奈良駅から15分余りバスに乗り、古市停留所で下車。南へ歩き、古市南の交差点を右へ曲がると、左右に田畑が広がります。そんな田園風景の中で、一際目立つ白く細長い建物が「はとむぎの杜」。

 すぐ隣の土地ではハトムギや野菜が栽培されており、お店に入ると、畑で採れた野菜が売られています。ずいぶん遠い田舎に来たような、のどかな雰囲気です。

 お店のオープンは、2017年11月1日。ハトムギを毎日おいしく食べられるようにと、ハトムギに関する食品、加工品、健康食品の「それいゆ株式会社」が始めたパン屋さんで、店内のショーケースに並ぶ全てのパンにハトムギ粉が使われています。

 パンを焼くのは、奈良県橿原市出身の上田美穂さん。パティシエ志望で専門学校に進み、卒業後に入社したのがパン屋さん。ケーキ工房に配属されましたが、朝、天然酵母を使ったパンも焼いていました。

 パン作りに魅力を感じて、次にはパン屋さんで働き、ミキシングや成形の技術を身に付けます。その時に生地やフランスパンにこだわるようになりました。その後、カフェで働きながら、家で酵母を起こしてパンを焼いていたのだとか。

 もっとパンを触りたくなって「はとむぎの杜」に入社。「ハトムギを使い、卵や乳製品不使用という、それまでと違うパン作りに苦労しました」と苦笑い。

 ハトムギはイネ科の穀物で、良質のタンパク質やビタミン、ミネラルなども豊富に含まれているのだそう。さっそく、畑のハトムギを見せてもらいました。台風や大雨にも負けずに豊かに実っています。

 数珠玉のような実が9月から10月に黒く熟したら収穫。畑の上空をトンボが飛び回り、細長い葉っぱの上でイトトンボが羽根を休めています。一歩進む度にバッタやカエルが飛び跳ねて、何ともにぎやか。

 ハトムギの畝の隣に、サツマイモやトウモロコシなどの野菜が植えられているのもおもしろい。

 ここの他、数箇所の畑でも有機無農薬でハトムギを栽培していて、自社の畑で採れたハトムギはお茶に加工されるのだそうです。

「パンに使うハトムギ粉は国内産。ハトムギ粉を加えると生地が重くなり、入れ過ぎるとクセの強い味になる。色々試して、1割から2割に落ち着きました。小麦粉も色々な種類を試して、三重県産に。パンとは別のものと考えるようにとアドバイスされて、新しいレシピが完成できました」と上田さんはにっこり。

 ハトムギから起こした酵母を使い、おいしいパンができるようになったと言います。今では、動物性のものを使わずに作るのが、とても楽しいのだとか。天然塩と、白砂糖ではなく、てん菜糖を使っているのも特徴。次々と、ここにしかないパンが生まれています。

2018.11.15(木)
文・撮影=そおだよおこ